前書きなど
はじめに
『ガルシアへの手紙』は、著者のエルバート・ハバードが「1時間で書き上げた」という話もあるくらいの、とても短いものだ。
この物語は多くの人たちの共感を得て、100年以上に渡って読み継がれ、これまでになんと1億人が読んだとされるほどの世界的ベストセラーとなった。
日本に初めて紹介されたのは日露戦争のころであったが、近年も、『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』(キングスレイ・ウォード著、城山三郎訳、新潮文庫)の中で取り上げられていたり、様々な形で紹介されていたりするので、ご存知の方もおられるだろう。
物語は、「アメリカ─スペイン戦争」が起きた1898年ころの出来事がもとになっている。
アメリカのすぐ近く、まさに裏庭的な場所にキューバがあるが、当時はスペイン領だった。このことは、アメリカにとっては気持ちがいいことではない。
そんなとき、キューバでスペインからの独立運動が起きる。当然、アメリカはそれを全面的にサポートすることになり、これがスペインとの戦争へと発展していくことになる。
当時のアメリカ大統領・マッキンレーは、キューバの独立運動のリーダーであるガルシアとどうしてもコンタクトを取りたかった。
今から100年以上も前の話である。当然、無線などの通信機器など存在しない。
それに、そもそもガルシアがどこにいるのか、だれも知らなかったのだ。
そこへ、ある人物が「ローワンならガルシアへ大統領の書簡を届けることができるだろう」と大統領に推薦する。そして、さっそくローワンが呼ばれることになった。
ローワンは大統領からの書簡を受け取ると、そのままボートに乗り、キューバに行き、敵陣に潜入し、4週間後には任務を全うし無事生還したのだ。
物語としてはこれだけのことだが、ここでハバードが称賛したのは、このときのローワンの「自主性」と「行動力」だった。
それは、「この男こそ、ブロンズで型にとり、その銅像を国中の学校で永遠に置くべきである!」というほどのものであった。
普通、いきなり「所在がよくわからない男に手紙を届けてこい」といわれたら、いろいろ確認したくなるものである。しかも、危険極まりないところに1人で行かなくてはならないのである。
「その人、どのあたりにいますかね?」といった、質問の1つや2つしたくなるものだ。しかし、ローワンは命令に対して一切質問することはなかった。
また、命懸けの任務であるにもかかわらず、指令を受けた後すぐに動き出すという、その図抜けた行動力は、やはり特筆すべき点である。
「自主性」や「行動力」は、現代の我々にとっても、成功をつかむ上で求められる大きなテーマであるが、その最高のお手本が、すでに100年ほど前に実在したのである。
ハバードは、よくローワンを理解した上で、その偉大さ、素晴らしさを物語の中で簡潔に示しているが、そこには経緯の詳細がまったく書かれていないため、『ガルシアへの手紙』を読んだら「実際にローワンがどのようにしてガルシアへ手紙を届けたのか?」ということが、当然、知りたくなる。
そこで本書は、その経緯の一部始終が記されている、ローワン自身が著した手記「ガルシアへの手紙を、いかに届けたか」も収録した完全版として刊行することとした。
私も『ガルシアへの手紙』から、生きていく勇気と希望を与えられた。そしてローワン自身の手記からは、生き方の大事なところを、より一層、深く、強く、詳しく教わった。
そこで私なりに、それぞれの物語のどこに注目し、どの点を学び、それをどのように人生に役立てていくべきか、というところまで解説してみた。
本書が、さらに今後100年以上にわたって、『ガルシアへの手紙』が読み継がれていくための、1つのバトンとなることを切に願っている。
三浦広