紹介
前著『ヨレハ記 旧約聖書物語』に続いて、作家小川国夫が終生をかけて書き継ぎ、その多くが未刊のままに残された「新約聖書物語」を集成する。
ここに、独自の福音書の読み込みをもってする、キリスト教文学史に類例のないイエス像が刻み出された。
イシュア、〈あの人〉、そしてユニア……神の働きが臨み、人間の世界に生まれた三つの渦潮。すべてを受け入れる者、疑いにその心を苛む者、嫉妬に身を焼く者、それぞれの全存在を賭けた闘いが、水晶に彫られたレリーフのように硬質な光沢を放つ。
宗教は、キリスト教は、なぜ発生し、人をどこへ連れて行こうとするのか。一人の作家に抱かれた問いが、その生涯においてどのように変奏され、湧出と曲折と逸脱の痕跡を残したか。ここにあるのは、人間の条件をめぐる神と人との対話であり、血で書かれた小川国夫の福音書である。
目次
イシュア前記
〈あの人〉
一部ともに在りし時
二部なぜ我を棄てたまいしか
三部その血は我に
ユニア
使徒
枯木
葡萄の枝
アポロナスにて
マンドラキ
囚人船
塵に
光と闇
諸書
命の中の死(肉の神学)
血と幻
十二族
骨王
準イエスをめぐって 小川国夫
解説 勝呂 奏