紹介
天衣無縫の語りが新時代の文明×芸術論となる!
博覧強記の思想家・片山杜秀が奇想天外な選曲とともに繰り出す機関銃トーク!
これぞ末世に贈る救国の音楽説法!
坂本龍一、ドゥダメル、カダフィ、酒鬼薔薇、口蹄疫、大相撲、ミイラ、靖国、海上保安官……
飽くなき好奇心と冴え渡る着想が、世界のしくみを解き明かす!
大好評『線量計と機関銃』に続く「ラジオ・カタヤマ」第2弾!
高音質の衛星デジタル・ラジオ「ミュージックバード」でカルト的な人気を誇る「片山杜秀のパンドラの箱」、2010年4月〜2011年2月に放送された10本を収録。
『未完のファシズム』(新潮選書、2012、司馬遼太郎賞受賞)、『国の死に方』(新潮新書、2012)で日本の言論界を席捲した「片山史観」が、たくまずして現代の音楽を語る絶妙の批評となり、軽妙な調子にのせて、面白さ・鋭さ・破壊力倍増で語られます。あっと驚く選曲の意味が最後にわかる「落ち」の面白さも魅力のひとつ。痛快トーク60分×10本をお楽しみあれ!
目次
坂本龍一と井上ひさし
現代政治と現代音楽
音楽雑誌と口蹄疫
力士とヤクザと紅衛兵
ミイラと靖国
麻薬とファシズム
朝日平吾と酒鬼薔薇聖斗
三島由紀夫と海上保安官
教育と労働
リビアと永井荷風
前書きなど
あとがき
『片山杜秀のパンドラの箱』という番組をやらせていただいております。生意気にもタイトルに姓名の入った〝冠番組〞というやつでございます。テレビではありません。ラジオです。しかもAMやFMではなくて、CSデジタル音声放送です。スペースディーバという名前が付いています。契約して専用のアンテナやチューナーを設置しないと聴けません。スペースディーバをやっているのは、TOKYO FMの子会社のミュージックバードです。スタジオは半蔵門のお堀端、TOKYO FMの四階にあります。そこでいつも収録しています。
『パンドラの箱』は月に一回の放送です。最終週の金曜二三時からの一時間番組。生放送ではありません。でもたいてい放送日直前に収録しています。なるべく時事ネタを拾う。そのためにギリギリまで粘っております。
そう、『パンドラの箱』は一種の時事放談番組なんです。さっき、CSデジタル音声放送のスペースディーバでやっている番組だと申しましたが、スペースディーバにはたくさんのチャンネルがあります。三ケタもあるんです。音楽放送が主ですけれども各分野でとてつもなく専門分化しています。たとえばジャズだと、ピアノだけとかヴォーカルだけとかビッグ・バンドだけとか。ワールド・ミュージックだと、伝統邦楽だけとか南島の島唄だけとかフラメンコだけとか。シャンソンだけ、カンツォーネだけ、演歌だけ、というのもあります。一日中それだけ流しているのです。
『パンドラの箱』は、それら数多のチャンネルの中でも「THE CLASSIC」というところでやっております。スペースディーバには西洋クラシック音楽のチャンネルが、オペラだけとか室内楽だけとか、九つもあるのですが、その中でパーソナリティが出てきてたくさん喋しやべる番組がいくつもあるのは「THE CLASSIC」というチャンネルです。かつては東条碩夫さん、いまは山崎浩太郎さんや舩木篤也さんがよく出ておられます。TOKYO FMのアーカイヴから串田孫一や柴田南雄の番組の再放送もあります。それからもちろんチャンネルの顔である田中美登里さんの番組も。
田中さんはTOKYO FMで、音楽番組を中心にプロデューサーもディレクターもパーソナリティも一人何役もこなして、長く活躍されてこられました。現在はミュージックバードのクラシック関連番組のゴッドマザーのような存在であられます。その田中さんのお声がかりで『パンドラの箱』は始まりました。「THE CLASSIC」はCDをまるまるかけたり、内外のコンサートのライヴを流す番組がとうぜんながら中心です。解説者が出てくるにしても、話す時間はそう長くはありません。そういう番組が並ぶなかに多少のアクセントがあってもいいではないか。そんなおつもりではなかったかと思います。とにかく『パンドラの箱』に期待されたのは音楽よりもトークのほうが長くなる番組ということでした。
そこで私は、一〇分から二〇分ていどCDをかけて──「THE CLASSIC」というチャンネルのなかなのだからなるべくクラシックをかけて──あとは四〇分から五〇分、ひたすら喋る番組を考えました。なるべく旬の話題を入れて、ラジオらしく即時性のある感じで中身を仕組む。いくら時事放談番組といっても「THE CLASSIC」というクラシック音楽専門チャンネルの一番組なのだから、クラシックに絡からむ話であるにこしたことはない。何をネタにするかは、たいてい収録当日までまっさら。放送作家もいないから、アウトラインを引いてくれる人もなし。お題とかけるCDだけ決めて、気の向くまま喋るままに収録。何が飛び出すかわからないから『パンドラの箱』。命名者は田中美登里さんでした。(後略)