前書きなど
本書は、歴史ガイドや観光ガイドといった類のものではない。まちの歴史を知ることは大切であるが、履歴書がその人の過去を知るだけではなく、その人の現在の姿と将来像を推し量ろうとするものであるのと同様で、本書で、このまちの現在と将来について、まちづくりの視点から考えたいのだ。
都心にありながら佃・月島には昔ながらの街並みがあり、一方、タワーマンションが林立する現代的な街並みもある。二階建て程度の木造建物と五十階建てといった鉄筋コンクリートタワーという正反対の建物が一つの地区に併存しているので、そのあまりの懸隔に戸惑うものの、近世・近代・現代と歩んできたこのまちの履歴が未だに残り、目前に実体で見ることができる。
またこのまちには、佃煮やもんじゃ焼きといったローカル・フーズがあり、歴史・文化・社会を目だけでなく舌で味わったり鼻で感じたりすることもできる。更に、再開発が数多く進行しており、現在から将来へと大きく動いていることも実地に体感できる。まちを読み解き、その現在と未来について考えようとする本書にとって、格好の対象なのである。
そして、佃・月島でのケーススタディにもとづき、広く日本のまちづくりについても述べていきたいと思っている。