目次
第1章 倫理的・道徳的成熟の分水嶺 岩川直樹
第2章 「心のノート」は対話を可能にする宝物となりうるか 越生 達
第3章 「心のノート」と今日の子ども・若者の規範意識 長谷川 裕
第4章 「心のノート」と「心の教育」のポリティクス 船橋一男
第5章 平和心理学から見た「心のノート」問題 杉田明宏
前書きなど
「心のノート」は「教科書」でも「副読本」でもない、正真正銘のプレゼントなのです。(中略)
ところで、プレゼントというものには、それなりの贈り方と受けとり方というものもあります。ふつうは、プレゼントを受けとったら「ありがとう」と言うのが礼儀です。しかし、いつもそうするのが正しいとか賢いとはいえません。たとえば、身に覚えもないプレゼントを突然もらったりした場合は、「えっ?」と戸惑うのが素直な反応でしょう。あるいは、いきなり「おめでとうございます! あなたが当選しました」という電話がかかってきたり、\"This is a great present for you\" などというタイトルのついた匿名のメールは、はじめからシャットアウトするのがいまや現代社会を安全に暮らすうえでの常識です。そういうプレゼントは受けとらないほうが賢明でしょう。(中略)
贈られて「ありがとう」と言うこともあれば、「え?」と戸惑うこともある。取り合わないこともあれば、きっぱりと辞退することもある。たとえ受けとっても、使うかどうかをふくめてそれをどう扱うかは自分で判断するもの。世の中の常識ではそれが「プレゼント」と呼ばれるものです。そのことはたとえ贈り手が国であっても変わりません。むしろ、国が子どもたち全員に贈ったプレゼントだからこそ、教師も親も市民もそのプレゼントをよく吟味したほうがいいはずです。このプレゼントは子どもたちどんな作用を及ぼし、私たちの社会をどんな方向へ向かわせるものなのかと。
ここでは、倫理学、子ども・若者論、教育社会学、教育実践の政治学、平和の心理学といった多角的な立場から、このプレゼントを吟味してみることにしました。みなさんが「心のノート」を吟味し、それに代わる道を探求するうえで、また、新自由主義や新国家主義に対抗する市民的知性のネットワークを張り巡らすために、この本がなにかのきっかけになればと思っています。