紹介
「治療構造論は,狭義の心理療法を超えて,あらゆる臨床場面に適応可能な認識論となる力を持っているし,面接関係のあらゆる局面において幅広い視野を提供してくれる汎用性を備えた方法論なのである。そして私は,かくも幅広い職域において,かくも多様な心理臨床の実践が求められるようになった今のこの時代において,その多様性に翻弄されることなく,本務を見失うことなく“,一本筋の通った”心理臨床の実践を志す人たちにとって,治療構造論こそが最も基本的な拠り所になるものだと考えている」(本書「はじめに」より)
この本は,故 小此木啓吾が提唱した「治療構造論」に新しいアイデアを盛り込み,時代に合わせて大転換を図った著者オリジナルな理論を,長年の臨床実践と多くの事例,文献をもとに詳解したものです。
教条主義と誤解されることもある治療構造論を,もっと中立的な方法論として整理し直し,密室だけで終わることのなくなった心理支援を汎用的に支える基礎理論とする,リアルな現場感覚をもとに,第一線の臨床家による,公認心理師時代の新しい心理支援の方向性を見出す必読の1冊が生まれました。
目次
§1 歴史的背景
序章 治療構造論の展開
A.治療構造論はこうして生まれた/B.治療構造論の発展を支えた意図/C.小此木の盲点と治療構造論が背負わせられた誤解/D.本書における治療構造論の展開
§2 実践のための治療構造論的センス
第1章 今ここにある構造を読む
A.社会的な文脈/B.組織という集団の中での期待/C.今ここにあるセッティング/D.セラピストが醸し出す空気/E.今ここにある構造上の矛盾
第2章 「構造を処方する」という発想
A.一挙手一投足を「処方している」と考えてみる/B.処方の背景としてのアセスメント/C.無意識の相互作用とセラピストの責任/D.思わず知らずの「処方」
第3章 構造を支える主体の変遷
A.今の構造を支えているのは誰か?/B.第三者の存在/C.自分に必要なものを感知する能力――クライエントの「No」を育てる
第4章 構造の設定,逸脱,変更,膠着の中に心の動きを読む――今起きている相互作用を理解する手掛かりとして
A.解読のためのコツ/B.設定/C.逸脱/D.変更/E.膠着
第5章 クライエントと共有している現実としての構造
A.心の了解の両刃性/B.理解,介入,そして関係の現実性,社会性を保証する/C.週1回以下の心理面接における治療構造論の機能
第6章 設定された構造からのお別れ
A.その場の「区切り」/B.あらかじめ設定された期限/C.継続面接の中断/D.継続面接の終結/E.お別れのその後