紹介
ナガオカケンメイさん推薦!
「あらゆる日本の条件が日本独自の“つづく”を生み出している。
この本には日本らしくつづけるための“和”の正体が書いてある。」
奈良晒(さらし)、江戸からかみ、茶の湯、金継ぎから、日本建築、日本画、絵馬、味覚、
さらに、文楽×現代美術、声明×現代音楽、能×歌舞伎、雅楽×叙情歌、落語×トークショーのクロスオーヴァーまで
──現代の美意識をもちながら昔から変わらぬものを再発見してきた人々のいとなみを紹介。
エッセイ、インタビュー、写真でつづる、新しい日本文化案内。
◎本書で取材したおもな人物
市川染五郎、桐竹勘十郎、杉本博司、東儀秀樹、野村萬斎、柳家花緑ほか
◎本書でとりあげた日本の伝統文化
【音楽】声明、雅楽
【芸能】浄瑠璃、文楽、落語
【工芸】奈良晒(さらし)、江戸からかみ、金継ぎ、暖簾
【美術】日本画、絵馬
【建築】一条恵観山荘、奈良基督教会
【味覚】三陸の海の幸、信州の伊那栗
【仏教】湖北の観音像、東大寺修二会
目次
はじめに
第一章 伝える
麻の文化──やわらかく、たくましい、奈良晒の布巾
きらめく和紙──「江戸からかみ」のある暮らし
第二章 見立てる
茶の湯の趣向──古美術と茶の湯
器の景色を変える──金継ぎ
いまふたたび、暖簾のある暮らし──実用から商標へ
第三章 営む
鎌倉の桂離宮──一条恵観山荘
宮大工の教会──日本聖公会 奈良基督教会
第四章 遡る
日本画の絵具──ルーツは太古の壁画
天駆ける馬と祈り──絵馬
第五章 創る
味蕾の記憶──縄文の海を味わう
果樹の里、ふたたび──地産地消からの町おこし
第六章 奏でる
『三番叟』をめぐる試み──野村萬斎+市川染五郎+三響會
古の歌声、声明──天台声明+真言声明+鳥養潮(現代音楽家)
花鳥風月を奏でる──東儀秀樹の雅楽
第七章 愉しむ
大坂が育んだ人形浄瑠璃文楽──桐竹勘十郎+杉本文楽
進化する話芸──柳家花緑の試み
第八章 祈る
かくれ里の祈り──湖北の観音像
水と火の修法──東大寺「修二会」
あとがき──「和」と出逢う
主な参考文献
前書きなど
はじめに
幕末の一八六七年、パリで開催された万国博覧会に、浮世絵をはじめとして琳派の絵画や工芸品などが出品された。この万博を契機に、ジャポニスム=日本趣味は、たちまちのうちにヨーロッパを席捲し、一大ムーブメントを巻きおこした。
マネは「ラ・ジャポネーズ」と題して緋色の打掛をまとった女性を描き、ゴッホは広重の『江戸名所百景』を油彩で模写している。彼らにとってのジャポニスムは、当時のヨーロッパが感じた東洋的な新しい美意識だった。それまでにない表現としての新鮮さが、彼らの心をとらえたのだ。
いま「和」は「クール」と称され、海外から脚光を浴びている。京都、和食、着物、花見、社寺、宿坊など、これらから発信される日本独自のエキゾチシズムは、そのどれもが美しく、日本に興味をもつ外国人にとってきわめて魅力的なのだと思う。
かつてのジャポニスムがそうであったように、「和」の表面的ないくつかの特徴に魅了されているだけの場合もある。そういう意味では、ファッションとしての「和」が脚光を浴びているだけなのかもしれない。
しかし、なかには日本の生活習慣や文化に深く立ち入り、私たち日本人よりもずっと深く「和」の本質を見極めている外国人がいる。彼らを見ていると、私たちが忘れかけている「和」を再発見することが少なくない。日本を客観的にとらえることで、彼らには彼らなりに「和」を理解しており、そこには、異国の文化に対する深い敬意までも感じられる。
かえりみて私たち日本人は、「和」について、いったい何を知っているのかと突きつけられると、明解な回答がみつからないことに愕然とする。あまりに身近すぎて目を向けることを怠っていたあいだに、ほんとうは見るべきもの、知るべきものをやり過ごしてきたように思う。
いま、ふたたびのジャポニスムにあって、当の日本人である私たちは、表面的な「和」にとどまらず、生まれ育った環境からおのずと身にそなわっている内なる「和」、つまり遺伝子レベルで組み込まれている「和」の感性に目を向け、「和」の本質へと向かう糸口を探しはじめるときではないだろうか。
海に囲まれた風土、四季のうつろい、古くからの風習や信仰、心の琴線に触れる音や意匠、これらのなかで連綿とつづく日本人の営み……この、何もかもを包みこむ魂のようなものが、私たち日本人には存在している。たとえ、いまは気づいていなくても、何かのきっかけで、それはかならず堰を切って私たちの心にあふれるはずである。
私たち日本人が潜在的にもっているはずの「和」にふれ、「和」とは何かを、あらためて考えてみたい。そして、その「和」に、現代人ならではの新たな精神を吹き込み、次代へとつなげていく試みをはじめなくてはならないように思う。それこそが、ここまで「和」の伝統をつなげてきた先人に対する、私たち現代に生きる日本人の使命ではないだろうか。
この作業を進めるため、いくつかのキーワードを探した。そこから、私たちの祖先が幾歳月をついやしてきた伝播の歴史と、それを支えた素朴で真摯な精神性を解きあかしてみたい。
読者の方々には、本書が一助となって、「和」という文化の本質にすこしでも近づいていただければと思う。