紹介
本書は,5部15+2章から構成されている。序章において,これまでの日本列島にかかわる動物地理学を概観した。第Ⅰ部では,分子系統解析という新しい手法を用いて,従来の動物分布境界線を再考している。第Ⅱ部では,日本固有種や南西諸島の動物集団を対象にして,地理的変異と種分化や集団分化との関係そして宿主と寄生虫との生物地理的関係が議論されている。第Ⅲ部では,考古遺跡から出土する動物骨について形態的特徴や分子系統からみた地域変異の変遷,さらにそこから推定される家畜化の歴史を論じている。第Ⅳ部では,山脈や砂漠が生みだす局地的ならびに大陸間におよぶ動物地理が語られている。そして,第Ⅴ部では飛翔能力を獲得した動物の動物地理とその進化の過程が考察されている。終章においては,次の新しい展開への橋渡しとして,総合科学としての動物地理学の展望について語った。
動物地理学が古典的な学問だと誤解している研究者とその卵たちに贈る必読の書。
目次
序章 日本の動物地理(阿部 永)
第Ⅰ部 分子データで読み解く動物分布境界線再考
第1章 DNAより示唆される北海道産トガリネズミ群集の成立過程(大舘智志)
第2章 DNAに刻まれたニホンジカの歴史(永田純子)
第3章 ヒグマの系統地理的歴史とブラキストン線(増田隆一)
第Ⅱ部 種分化と動物地理
第4章 両生類の地理的変異(松井正文)
第5章 琉球列島および周辺離島における爬虫類の生物地理(太田英利)
第6章 アジアのネズミ類相の成因に関する時空間要因(鈴木 仁)
第7章 齧歯類と線虫による宿主 - 寄生体関係の動物地理(浅川満彦)
第Ⅲ部 化石と考古遺物の動物地理
第8章 ニホンイノシシの分布,サイズ,変異(高橋 理)
第9章 イノシシの遺伝子分布地図と起源(石黒直隆・渡部琢磨)
第Ⅳ部 山脈と砂漠の動物地理
第10章 土壌環境がモグラの分布を制限する(阿部 永)
第11章 シルクロードの動物地理:アカシカのダイナミックな大陸移動(馬合木提 哈力克)
第Ⅴ部 飛行への適応と動物地理
第12章 滑空性リス類の進化を探る(押田龍夫)
第13章 コウモリ類における地理的変異と動物地理(前田喜四雄)
第14章 小コウモリ類超音波音声の地理的変異(松村澄子)
終章 これからの動物地理学(増田隆一)