前書きなど
あとがき
これは『噂の眞相』の後半期に連載した「7人のバカ」という見開きコラムをベースにしてつくった本である。連載時点のサブタイトルに「今月の虚言・妄言・戯言を剥ぐ!」とあるように、文化人を中心とした有名人たちのテレビや雑誌などでの発言をピックアップして揶揄したり、からかったり、風刺するというのがコンセプトだった。『噂の眞相』は特集記事からコラム記事まで、オピニオンリーダーやパワーエリートと呼ばれる社会的影響力の大きい人物の知られざる実像を積極的に公開することを雑誌づくりの基本にしてきた。それもなるべく知名度のある人物を反権力・反権威スキャンダリズムの視座で取り上げ、切り口も真正面から直球で斬るというスタイルにこだわってきた。しかし、こうした直球型の記事は書かれた側のダメージも大きいために抗議やトラブル、時には裁判沙汰になるというリスクが常につきまとっていた。
そうしたリスクを多少でも回避すると同時に、特集で取り上げるほどのネタではないが看過できないメディア上での文化人たちの発言や記述を拾い集めて、ジャブ程度でもいいから批判しておこうというのが「7人のバカ」の狙いだった。タイトル通り、毎月7人の人物をとりあげていたが、テレビから雑誌までの幅広いウォッチを一人に任せたら大変な労力を要するため、7人のライターが手分けして1人1本を匿名で書くという方法をとった。そのために書くライターによっては切り口の視点やスタンスが微妙に違っている。当然、全体のバランスや統一性を維持するために編集部のチェックは入れたが、それぞれのライターの個性をなるべく生かすことを心がけてきた。したがって、このコラムは必ずしも『噂の眞相』の編集方針に合致したものだけ取り上げたというわけではなく、人選や切り口じたいもよりアナーキーなものになっているはずである。
『噂の眞相』における直球型コラムの代表格が佐高氏の「タレント文化人 筆刀両断!」だとすれば、この「7人のバカ」は高橋春男の「絶対安全Dランキング」、ナンシー関の「顔面至上主義」の路線に近いチェンジアップ手法のコラムだった。かなり辛辣に書いても、書かれた本人がマジに怒ったら逆に笑われてしまうというのが、このチェンジアップ・コラムの強み、武器となった。筆者が記憶する限り、抗議や裁判沙汰になったことは一度もなかったことが、その何よりの証明になるだろう。
『噂の眞相』が雑誌としては前代未聞の黒字休刊を断行した前後に、足立三愛氏のとびらイラストから「一行情報」、半ページ強のコラム「撃」までほとんど全部の連載企画が単行本化された。その様は、まるでハゲタカ・フアンドのごとし、だった。それでも、この「7人のバカ」だけが単行本にならなかった。理由は佐高氏も「まえがき」で述べている通り、休刊宣言よりもはるか以前に単行本化の話を持ち込んできた出版社が、発刊を目前に潰れてしまうというアクシデントに遭遇したためである。
休刊6ヶ月前から開始した休刊宣言のカウントダウンで、『噂の眞相』編集部は創刊以来、最高に忙しい日々を送る事態になり、休刊して以降も筆者自身の単行本の執筆やテレビでのレギュラーの仕事が続いていたので、この本の企画が潰れたことすらもすっかり忘れていた。そんなところに、佐高氏から「『7人のバカ』の単行本はどうなったんだっけ?」という電話が入ったのだ。昨年の9月、筆者が沖縄にいるときだった。さっそく、『噂の眞相』でこの単行本の窓口役をやっていた当時のスタッフSに連絡すると、「出版社は潰れたけど、調べたらフロッピーは残っているそうです」との回答。それを佐高氏に伝えたことで引き継いでくれる出版社が決まり、この幻の本は単行本として甦ることになったのだ。筆者はこの単行本用に佐高氏と対談した事実すらもすっかり忘れていたが、佐高本人はしっかり憶えていたというわけだ。人のことを「バカ」と書く資格があるのかという鋭い突っ込みが入りそうな自分のバカぶりが恥ずかしい。
それからというもの、単行本化は急ピッチで進行した。今回新たに追加された対談にしても、実にあわただしく行われた。朝日ニュースター「TV ウワサの眞相」に出演するために筆者が上京した折、番組収録を終えた佐高氏に拉致同然に連れて行かれたのが青山のレストランだった。そこには七つ森書館の中里編集長や美人スタッフ、カメラマンが控えており、その場で碌な打ち合わせもなしに即対談開始となったのだ。その対談をやったのが昨年12月の初旬だった。そして今年2月初めにテレビの仕事で久々に東京に戻ってくると、いきなり「今月中に本を出すのでゲラチェックをよろしく」と編集長が新宿の事務所にやってきたのだ。こちらにしてみれば、あのオフレコだらけの対談がそのまま活字になるとは思ってもいなかったし、「7人のバカ」はかなり前の企画だから取り上げる人物の再セレクトや、時代にそぐわない記事の大幅改編・刷新が必要だろうと判断していたので、出版するにしてもかなり先のことだろうと思っていた。「今月中の出版のため、ゲラチェックは東京滞在中にすませて欲しい」といわれたときは、何だか詐欺にあって嵌められたような感じだった。
しかし、よく考えれば、さすが「筆刀両断!」の佐高信というべき行動力かもしれない。風貌が革命家・レーニンを思わせる編集長と佐高氏が組んだ陰謀、詐欺師まがいのスピード編集・進行がなければこの本はダラダラと時間がかかって最終的に日の目を見なかった可能性だってあるからだ。そのことには十分感謝しつつも、本書の記述に関して何か文句や抗議があった場合には、責任の所在は「バカな筆者」の方ではなく、この二人にあることを明記して、「あとがき」としておきたい(苦笑)。
2007年2月13日 岡留 安則