目次
序 文
第1章 技術と人間の知識の問題
はじめに
有用な知識――いくつかの定義
「有用な知識」の理論
有用な知識の歴史的進化
有用な知識と社会科学
第2章 産業啓蒙主義
――経済発展の根源――
はじめに
産業革命期の知識、科学、技術
知識革命
結 び
第3章 産業革命とそれを越えて
はじめに
第1次産業革命
第2次産業革命
第3次産業革命か?
有用な知識と経済成長
第4章 技術と工場制
はじめに
産業革命と工場の勃興
工場化の意義
工場化の説明
産業革命以後の工場
将来の展望
第5章 知識、健康、家庭
はじめに
家庭の知識と健康の単純モデル
3つの科学革命
知識、説得、家庭行動
家政学と家事労働
補 遺
第6章 知識の政治経済学
――経済史におけるイノベーションとそれに対する抵抗――
はじめに――選択と知識
制度と技術
市場か政治か? 抵抗の経済史
政治経済学と産業革命
カードウェルの法則再考
結 び
第7章 制度、知識、経済成長
参照文献
監訳者あとがき
図表一覧
人名・地名索引
前書きなど
ギリシャ神話では、ケクロプス王についてこんなことが言われている。ケクロプス王はアッティカのアクロポリスの上に新しい都市を創り、この都市に最も魅力的な贈り物を与えてくれた神の名前を付けると約束した。最初に海神ポセイドンがやってきて岩を割ると、透き通った水が流れ出た。しかしケクロプス王がその水を飲んでみると塩辛かった。次に、知識と知恵の女神アテナがもっと価値のある贈り物であるオリーブの木を携えてやってきた。あとはたぶんご存知の通りである。
知識と、自然の規則性や天然資源の利用との関係の展開は、技術史の主題である。本書が扱うのは、人々が自らの物質的環境について何を知っているかが非常に重要であり、それはこの数世紀の間にさらに重要性を増してきたという命題である。本書は経済成長の歴史を扱っているが、それをはるかに超えた経済的厚生の歴史、すなわちより長寿で健康で安全な生活、多くなってきた余暇と物質的快適さ、死亡率と罹病率の低下、そして苦痛と悲しみの減少を扱う本でもある。知識は濫用もでき、20世紀には恐ろしい規模でそれが起きた。技術は地球上の生命を抹消してしまう潜在力を持ち、また少数の個人に大きな力を与える能力も持っている。チャーチルのよく知られた言葉で再度言い換えると、これほど少数の人間が、これほど多数の人間に、これほど多大な損害を与える力を持つようになったことはかつてないことである。ともかく、我々の物質的世界が以前とは異なってしまったこと、またなによりも我々が知っている物事がこの変質を引き起こしたということに、疑問の余地はない。
……
[「序文」冒頭より]