目次
はじめに
Ⅰ 原理編
第1章 哲学の側からLet's概念工学!
1 概念工学とは何か
2 カッペレンの「概念工学」と本書の「概念工学」
3 哲学と概念分析――いつの間にか始まってしまう概念工学
4 概念工学の実践的重要性――工学とのアナロジーをさらに深める
5 われわれの目指す概念工学はどのように進められるべきか
第2章 心理学の側からLet's概念工学!
1 概念工学への協同のお誘いを受けて
2 心理学と概念
3 概念と測定の関係
4 素朴理解への依存がもたらすもの
5 あらためて概念工学に向けて
Ⅱ 実践編
第3章 心の概念を工学する
3-1 心理学側からの問題提起
1 社会心理学と「心の知覚」
2 心の知覚に関する基本的なモデル――「する心」と「感じる心」
3 心を知覚するとき・しないとき
4 心の知覚と道徳性の関わり
5 おわりに
3-2 哲学側からの応答
1 心の知覚に関する社会心理学研究――成果と課題
2 心概念に関する概念工学の必要性
3 記述的な概念工学と実践的な概念工学
4 概念工学を実現する2つの方法
5 概念工学的介入の有効性
6 おわりに
第4章 自由意志の概念を工学する
4-1 心理学側からの問題提起
1 はじめに
2 人々の自由意志概念を捉える
3 哲学者の議論との接点
4 「自由意志が存在する」という信念の影響
5 人々の自由意志概念に関するモデル化
6 新たな自由意志概念に向けて
4-2 哲学側からの応答
1 自由意志論の係争点――「求めるに値する自由」
2 「求めるに値する自由」の心理学的記述
3 記述から指令へ――4つのプロジェクト
4 自由意志論の概念工学的性格
5 自由意志の概念工学――超越論vs自然主義
6 おわりに
第5章 自己の概念を工学する
5-1 心理学側からの問題提起
1 「自己」をめぐる2つの現実
2 心理学黎明期の自己研究
3 自己の実証的心理学研究――内観から定量的測定へ
4 自己という概念を構築すること
5 おわりに
5-2 哲学側からの応答
1 自己の概念工学を始めるために
2 自己という概念を調べる
3 自己という概念をいじってみる
4 自己という概念のポイントを特定する
5 自己という概念のエンジニアリングに向けて
Ⅲ 展望編
第6章 心理学者によるまとめとこれからに向けて
1 はじめに
2 生活実践と概念工学――心に関する議論から
3 求めるに値する概念――自由意志に関する議論から
4 認知対象としての概念と機能を果たす概念――自己の議論から
5 概念工学と心理学、残された課題
第7章 哲学者によるまとめとこれからに向けて
1 はじめに――本章のねらい
2 「心あるもの」の概念をめぐって
3 自由意志および責任の概念をめぐって
4 自己の概念が概念工学に投げかける問題
5 「概念」概念の概念工学の必要性(何のこっちゃ?)
6 おわりに
あとがき
索 引
前書きなど
本書のタイトルにある「概念工学」という耳慣れない言葉は何であろうか。概念工学とは、われわれの生にとって、あるいは人類の生存にとって重要な諸概念を、よりよい社会の実現やよりよい個人の生き方に貢献することが可能となるように、設計ないし改定、つまりエンジニアリングすることを目指す、今のところまだ存在しない研究領域である。とは言うものの、これは哲学の自己理解としてそれほど奇異なものではない。哲学は概念を創造するとはよく言われることだ。また、これはプラグマティズム風に響くかもしれない。まったくその通りであって、哲学史的に述べるならば、概念工学とは、自然主義という形で現代哲学に流れ込んでいるプラグマティズムの流れが、フレーゲ以来のもう一つの伝統、つまり概念分析としての哲学を飲み込む形で成立する、哲学の理念であると言える。
哲学と心理学(とりわけ社会心理学)とは、共通の対象を探究してきた。それらはともに、自由意志、意図、自己、行為者性、責任、公平さ、因果等々、個人や社会の在り方にとって重要な概念を探究する。そして、両者は探究のレベルないしアプローチも共有しているように思われる。それらはともに、これらの概念の本性に関心をもつと同時に、人々がそれらの概念をどう捉えているかをも問題にしようとしているからだ。
哲学と社会心理学の実り豊かなコラボレーションが来るべき概念工学の基盤となる、というのが本書の基本的立場である。ところが、これまでのところ両者の関係は「実り豊かなコラボレーション」と言うには程遠い状況にあった。両者はとても似通ったところのある探究活動であるにもかかわらず、しかしながら、双方の分野に属する若手研究者たちの努力により、共同研究の試みがなされつつあるのは心強い。本書のねらいは、そうした萌芽的とりくみをさらに次のステージへと高めることにある。
……
[「はじめに」冒頭より]