前書きなど
唯一生き残るのは変化できる者のみである
10.5兆円。これが日本のスーパーマーケットの市場規模だが、業界統計によると年々減少傾向にある(2017年版スーパーマーケット白書)。
かたやコンビニエンスストアの市場規模は、2018年12月末日段階で10兆9646億円(日本フランチャイズチェーン協会調べ)となった。スーパーマーケットが日本の食品販売業界トップの地位をコンビニエンスストアに明け渡した瞬間である。今後はさらに、毎年13%ずつ伸びているコンビニエンスストアとの差は広がる一方だろう。
ドラッグストアも急成長を続けている。市場規模は2017年では6兆8504億円(日本チェーンドラッグストア協会調べ)で、年率5%以上の伸びで拡大している。
もうそろそろ、我々スーパーマーケット業界も危機感を持たなければならない。売上高(市場規模)でコンビニエンスストアに抜かれ、ドラッグストアの猛追を許している現在、我々には新たな企業戦略の構築が求められている。
さらには、アマゾンを中心としたeコマース業界の台頭がある。特にアマゾンは「アマゾンエフェクト」という社会現象を起こすぐらい、さまざまな業界や市場に混乱を巻き起こしている。
我々スーパーマーケット業界も例外ではない。2017年には日本でも、最短4時間で生鮮食品を届ける仕組みを引っさげて「アマゾンフレッシュ」がスタートした。ワンクリックで商品が買え、自宅まで届けてくれるという完璧なサービスを実現しようとしている。我々は、世界中で買物のルールを変えようとしている“バケモノ”と競争をしていかなければならない。
すでにスーパーマーケットの先進国アメリカでは「百年に一度の大変革期」と位置づけ、トライアル&エラーを繰り返しながらも「カーブサイド・ピックアップ」「アプリ購入・決済」「インスタカート(買物代行)」「ミールキットの商品の開発」など、近未来へ向けてのさまざまな取り組みを死に物狂いで行っている。
それに比べて、日本のスーパーマーケットには危機感がほとんどない。ここで変革していかないと、彼らに市場シェアを根こそぎ奪われかねない。「商人伝導師」として、全国のスーパーマーケットのを応援し続けている私には、そんな危機感がある。
第1章では、「百年に一度の大変革期」に直面するアメリカの小売業やスーパーマーケットの取り組みを紹介する。それを学ぶことにより、皆さんの進むべき方向性ややるべきことが見えてくるのではないかと考えている。
特に、世界一の小売企業「ウォルマート」は必死でアマゾン対策を行っている。その姿には鬼気迫るものがある。今までの成功体験を自ら全面否定して取り組む姿はさすが世界一と思わせられる。また、全米ナンバーワンのスーパーマーケット企業「クローガー」も、ウォルマートに負けず劣らずトライアル&エラーを繰り返しながら変革しようとしている。
こうした流れはビッグウェーブとなって日本にも必ずやってくる。そのときに、しっかりと準備ができているかどうかで企業の将来が決まるといっても過言ではない。
第2章では、日本でも起こりはじめた“新たな動き”を紹介する。たとえば、「ホールフーズマーケット」のように、オーガニックや特別栽培商品を取り扱い、合成着色料や保存料などの添加物を使用しない商品を積極的に展開する企業が、日本でも業績を伸ばしている。
また、「トレーダージョーズ」のようにオリジナルのプライベートブランド商品を開発する動きがあること、さらにドイツ発祥の「アルディ」や「リドル」のようなハードディスカウンターが出現する可能性があること、スーパーマーケット業界でも「ユニクロ」のような製造小売業を目指している企業があることなどを紹介し、日本にも少しずつ新しい流れが起こっていることをお伝えする。
第3章では、労働人口が減り続けている日本において、大きな経営課題となりつつある人手不足への対策を取り上げる。これを解決していかないと、「労務倒産」なるものまで発生する危険性をはらんでいる。採用戦略を企業戦略の大きな柱として位置づけ、どのように人手不足を解消し、さらに優秀な人材を採用していくべきかを提案させてもらう。
外国人労働者の採用も避けて通れない課題になっている。どのように外国人労働者を戦力化していくのかについても提案していきたい。
第4章では、生鮮と惣菜について部門別に近未来戦略を提案する。「仕入れ」から「調達」へ変えていかなければ、差別化や独自化の道は閉ざされることを強調した。生き残るためには、仕入れの大変革が急務である。
また、新しく生まれつつあるマーケットやニーズについても詳細に紹介した。そうした未開拓の領域への挑戦こそが、自社を競合相手のいないブルーオーシャン領域に導き、近未来戦略の柱となることを理解していただければ幸いである。
第5章では、グロサリー部門の近未来戦略を提案する。まず改善すべきは「商品軸」発想から脱しきれていない棚割りである。これを改善しなければ、未来はない。
何より「取引」から「お取り組み」へ関係性を変更し、ウィン・ウィンの関係で商品開発や発掘をしていかなければ未来がない。そしてローカル企業(メーカー)と関係性を深めていかなければ「ローカル」という切り口では差別化できなくなる。具体的な商品名や成功事例を挙げながら提案させてもらう。
第6章では、「近未来の店長像」と題して、これからの店長のあるべき姿を紹介し、どのような取り組みが必要かを提案する。
人口減少・少子高齢化によりマーケットが縮小しているにも関わらず、競合は激しさを増すばかりの中、どうしたら生き残っていけるのだろうか?その糸口こそ「売上高」至上主義からの脱却であり、「人時売上高」至上主義への変更である。そのあたりを中心に、近未来の店長像を提案させていただく。
第7章では、スーパーマーケットの近未来戦略の大きな柱として、「ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略」を紹介する。「価格(安さ)」「アクセス」「サービス」「商品」「経験値」という5つの項目のうち、何で尖り、何で差別化するのかを明確にする戦略である。
すでに、これらを打ち出せないと生き残れない時代に突入している。たとえばアマゾンは。「価格(安さ)」「アクセス」「サービス」「商品」という4項目において、リアル店舗より高い優位性を持ち合わせている。だから、アマゾンエフェクトと呼ばれる社会現象を起こしている。
このファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略において明確な戦略を打ち出し、それを実現していく戦術や成功事例を数多く紹介する。これこそ「近未来戦略」の大きな柱であると理解してもらいたい。
アメリカ視察を10年以上にわたって年2回以上続けている商人伝導師だからわかること、年間200日以上にわたって日本全国を飛び回っている商人伝導師だからわかること、これらを一冊にまとめたのが本書である。
10年後には、小売業の勢力図は大きく様変わりしていることだろう。
10年後には、スーパーマーケットの勢力図は大きく様変わりしていることだろう。
日本のスーパーマーケット業界の悲願である「年商1兆円」企業も誕生していることだろう。
その反面、このまままで行くとスーパーマーケットの市場規模は年々減少傾向となり、コンビニエンスストアやドラッグストアに大きく水をあけられ、廃業や倒産する企業も数多く出てくることだろう。
しかし、この国がコンビニエンスストアとドラッグストアばかりになったら、日本の伝統料理や郷土料理は廃れてしまう。食のサステナブル(持続可能性)を継承できるのはスーパーマーケットしかない。
日本には世界に誇れる食文化が存在する。この食文化を継承していく使命が我々にはある。変化を恐れず、変化に果敢に挑戦し、トライアル&エラーを繰り返しながら、新しい近未来戦略を構築していくときである。
奇しくも2019年は「平成」から「令和」へと時代が変わる年となった。そして2020年には56年ぶりに東京オリンピック・パラリンピックが開催され、2025年には55年ぶりに大阪万博が開催される。日本の高度経済成長期にあった2大イベントである。
1962年、林周二先生が『流通革命』という本を出版され、多くの流通業の若きリーダーたちが共感・感銘し、アメリカの流通業から多くを学び、一大産業へと発展させた。まさに今、「第二次産業革命」のときが到来しているのだ。
「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもない。唯一生き残るのは変化できる者のみである」
これは、進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンの言葉である。日本に新たなる流通革命が起きようとしていることを自覚し、勇気をもって誰よりも早く新しいことに挑戦していかなければならない。本書がそのきっかけになれば幸いである。
では、「スーパーマーケットの近未来戦略」をスタートしよう。
商人伝導師 水元 仁志