前書きなど
「負け犬の遠吠え」にこそ宿る真実
経営破綻から早3カ月、思い出の詰まった会社の社長室で一人この文章を書いている。すでに電気や水道は止められ、トイレも使えない。かつての自分の城にもそう長くはいられない。
思い起こせば、苦しいことのほうが多かった商人としての人生だった。たくさんの人に助けられながら生き延びてきたが、この会社もついに幕を下ろすときが来た。
土地や建物もいずれ人手に渡り、当たり前のように自分がいた場所も墓標となって消えていく。お世話になった地域の消費者の記憶からも、日々消え去られていくのだろう。
私は経営者として失格だった。100年以上続いた家業を倒産させ、180名にも上る従業員を解雇して路頭に迷わせた。金融機関や関係者、長年の取引業者に迷惑をかけ、何よりやまとを頼みに生活している地域のお客様、とりわけ高齢者から買物の手段を奪ってしまった。いまさらながら本当に申し訳なく思っている。
資産も人脈もノウハウもない田舎のスーパーマーケットが、巨大資本や地元の大企業と戦ってきた。勝てるはずのない戦いと知りつつも命を削り、知恵を絞ってつないできた。
経営者としては失格だった私が、もう二度と戻ることのないこの業界へ「遺言」を記しておこうと決めた。そして、私ができなかった地域への恩返しを、読んでいただいた誰かに、同じ過ちを繰り返すことのないように託したいと思った。
逆境や絶望からよみがえった人間の体験談ならいざ知らず、会社や地域を救えなかった人間の思いである。「負け犬の遠吠え」だと思ってお付き合いいただければ嬉しく思う。
ただ、そこにはいくばくかの真実もあるはずだ。
やまと元社長 小林 久