紹介
トニ・モリスンは、アフリカ系アメリカ人で初めて
ノーベル文学賞を受賞した女性作家である。
本書は、モリスンの小説テクストを、
《物語の枠組み》というフォルム上の観点と
《三角形のきずな》というコンテント上の観点から
分析することにより、フォルムとコンテントが
どのように相互に共鳴しているかを検証している。
モリスンの小説にはつねに何らかの《物語の枠組み》が
内蔵されている。
そのジャンルはおとぎばなし、寓話、民話、映画、小説、
歴史、聖書、わらべ歌など多岐にわたるが、
必ず何らかの物語の枠組みが存在する。
しかしそのあり方は決して顕在的ではない。
たとえば、小説『タールベイビー』では、
表面上、黒人民話が物語の枠組みであるようにみえるが、
実際は別の隠された重要な物語の枠組みがあることが判明する。
このようにモリスンの小説では、表面上の物語の枠組みは
換骨奪胎され、まったく違う物語へと作り替えられる。
物語のコンテントはフォルム上の特徴(物語の枠組み)と
密接に繋がっている。モリスンの小説において追究されているのは、
社会的な弱者どうしの強い連帯のあり方である。
弱者どうしの関係は双数的な関係ではなく、
両者の間に第三項の存在が介在している。
第三項の存在は、二人にとっては一見何の関係もない、
多くの場合「その場限り」の第三者的な存在であるが、
相互的にのみ閉じこもる弱者どうしの関係を再生させ、
外の世界へと接合させ、永続的なものへと変容させる。
またその過程で、家族、血縁、人種、性等による
固定化された繋がりが無効にされ、新しい人と人との関係が
起ち現れてくる。このような弱者どうしの連帯を
《三角形のきずな》として表現した。人間関係の変化とともに
物語内容はまったく新しいものへと変化していく。
このように、本書では、フォルムとコンテントが
相互に共鳴するトニ・モリスンの小説の語りの手法と
その文学世界の独自性が明らかにされている。
目次
(序)物語の枠組み、三角形のきずな
(1章)裏切りとセクシュアリティ 『青い目がほしい』
(2章)閉ざされた水の下の欲望 『スーラ』
(3章)三角形の欲望 『青い目がほしい』
(4章)赤ずきんちゃん気をつけて 『タールベイビー』
(5章)ブラックガール、ホワイトガール 『レシタティーフ』
(6章)語るもの/語りえぬもの 『ビラヴド』
(7章)反復、変奏/変装、誤読 『ジャズ』
(8章)ルビーの血/エメラルドの水 『パラダイス』
(9章)廃屋のカナリア 『ラヴ』
(10章) 家父長制、奴隷制、母と弟 『マーシィ』