目次
刊行にあたって 平沢安政
第Ⅰ部 人権教育の過去・現在・未来
第1章 総論 これからの人権教育の創造にむけて 平沢安政
第2章 教育現場の多忙をどう解消するか―人権教育を進めるために 大森直樹
第Ⅱ部 個別人権課題の視点から見た人権教育
第3章 ジェンダーの視点からの教育 木村涼子
第4章 同和教育―学力保障の再考 高田一宏
第5章 ニューカマー教育 志水宏吉
第6章 子どもの権利 住友剛
第7章 障害と教育 堀家由妃代
第Ⅲ部 拡大する人権教育の領域
第8章 キャリア教育(進路保障) 神野ちどり
第9章 「国際理解」教育から市民性教育へ―人権教育の果たす役割 野崎志帆
第10章 教育コミュニティ―多様なつながりから人権文化を育む 若槻健
おわりに
前書きなど
日本の人権教育は、とくに同和教育を中心に発展してきた歴史をもっているが、1990年代以降人権教育が対象とする個別人権課題は部落問題だけでなく、ジェンダー、障がい者、子ども、外国人など、人権課題はきわめて幅広く捉えられるようになり、また豊かな人権文化の構築に焦点をあてた普遍的視点からのアプローチ(自尊感情の育成、多文化共生、生命の尊重、法的リテラシー等)も広がってきた。このように、人権文化の確立や人権教育の推進を促す国内外の社会状況に対応しながら、人権教育の実践と研究は今も進化し続けており、「人権と環境の世紀」ともいわれる21世紀において、人権教育を推進することは時代の必然的要請となっている。
本書では、同和教育の歴史と成果をふまえつつ、人権教育を今後さらに幅広く推進していくために、人権教育にかかわるさまざまな分野で先端的な研究や実践を行っておられる研究者・実践家の皆さんに各章を執筆していただいた。全体は大きく分けて、①人権教育の発展経緯と今日的な政策課題を論じた総論部分、②ジェンダー教育、同和教育、ニューカマー教育、子どもの権利と教育、障害と教育等、個別人権課題の視点から人権教育について考察した部分、③教育コミュニティづくり、キャリア教育、市民性教育等の問題意識をふまえ人権教育との接点を拡大している関連領域の観点から人権教育の課題を示した部分、から構成されている。
このように、本書では学校人権教育の「いま」を歴史的な発展過程の中でとらえ直し、今日的な政策課題と合わせて描き出すとともに、いくつかの個別人権課題に即したそれぞれの現状分析(個別的な視点からのアプローチ)と拡大・発展しつつある学校人権教育の実践領域の概観を示している。書名を『人権教育と市民力』としたのは、人権教育が狭い意味での人権問題教育の段階を越えて、普遍的な視点からのアプローチとの効果的統合が求められるようになり、また「自立/自律」「自己実現」「共生」「協働」「社会参加」などに焦点をすえながら、21世紀という新しい時代を生きる市民力の育成につながるものとして、今後もさらに継続的に進化させていく必要があると考えたためである。個々の章では必ずしも「市民力」のことが明示的に論じられているわけではないものの、全体を貫く共通のメッセージとして読み取っていただけることを願っている。