目次
プロローグ フランス近世美術の輝き 大野芳材
第1章 フランソワ一世の〈「浴室の間」ギャラリー〉 田中久美子
第2章 ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの《いかさま師》 平泉千枝
第3章 若き国王ルイ一四世の表象 望月典子
第4章 ヴァトー《シテール島の巡礼》 伊藤已令
第5章 アデライード・ラビーユ = ギアール《二人の生徒といる自画像》 矢野陽子
第6章 クロード = ジョゼフ・ヴェルネの嵐 吉田朋子
エピローグ フィリップ・ド・シャンパーニュ小考 大野芳材
註
人名索引
前書きなど
フランス近世、美術史では一般にルネサンス、バロック、ロココと呼ばれる一六世紀から一八世紀の美術については、プッサンやヴァトーといった少数の幸運な画家たちを別にすれば、日本ではいまだ深い霧の彼方にあるといってもよい。この叢書は、作品を手がかりにしながらさまざまな視座から近世美術の諸相を解き明かして、その魅力を広く紹介することを目的に刊行された。この時代の美術の研究は、ここ二、三〇年に大きく前進した。フランスの研究者が主導するかたちで美術作品が掘り起こされ、情報が飛躍的に増加するとともに、文書資料の調査が進んだのである。それらの参照や閲覧が、インターネットを利用することでかつては考えられなかったほど容易になったことが研究を推進した、というより、両者が相互補完的に近世美術の発掘を支えてきたといえよう。叢書の各論考は、私たち日本の研究者がそれらを学んで展開した研究の、いわば軌跡である。論考とはいっても美術のみならずひろく文化や歴史に興味のある読者を想定して、それぞれの執筆者は理解がいきとどくように心を配っているはずだから、それらをもとにして近世美術への関心を深めていただけたら幸いである。さらに目を転じれば、今日の美術の鑑賞や受容の機構の原型は、フランスの近世にかたちづくられている。美術展覧会や美術館、さらに美術教育や美術書や美術批評など、それらの起源はルイ一四世の文化政策にまでさかのぼることができるのである。この時代の美術を考えることは文化史や社会史などの領域にまで及び、前記した多角的視点をおのずと呼び寄せるということにもなろう。フランス近世美術叢書第Ⅴ巻『絵画と表象Ⅱ』では、これまでとりあげる機会のなかった画家を中心に、六編の論考を収める。制作の背景や内容の解明を通して、近世美術の新しい側面を理解し、魅力にふれていただけよう。