目次
第1章 リラの調べを聴く──ヤコポ・デル・セッライオ《オルフェウスとエウリュディケの物語》における音楽の寓意と聴くことの喜び 出佳奈子
第2章 描かれた天上の音楽──ヴェネツィアの祭壇画にたどる奏楽天使たち 佐々木千佳
第3章 ヴィンチェンツォ・ジュスティニアーニの「たくらみ」──カラヴァッジョ《リュート弾き》再考 吉住磨
第4章 バロック宮廷の競奏曲──《マルカントニオ・パスクァリーニの肖像》とバルベリーニ時代の音楽文化 新保淳乃
第5章 エヴァリスト・バスケニス「楽器の静物画」 大野陽子
註
解 説 ルネサンスからバロックにかけてのイタリアの音楽的表象──ヤコポ・デル・セッライオからエヴァリスト・バスケニスへ 上村清雄
人名索引
前書きなど
一五世紀ルネサンス以降の芸術作品において、楽器を奏でる人、歌う人、そして楽器そのものは、たとえ本作品のようにその機能を停めた楽器でさえも、秘められた主題を表現するうえで重要な役割を果たしている。主に視覚に訴えると考えられる絵画作品においても、音楽に代表される聴覚の感覚には大きな役割が与えられており、依頼者であれ鑑賞者であれ、もちろん画家本人も、さまざまな象徴と意味を考えながら、絵画作品をただ目で味わうだけでなく、口ずさみ、耳に響かせ、あるいは絵の中に分け入り、画中の人物と共に唱和し、あるいは演奏に耳を傾けたのである。美術作品に表現された聴覚を論じる本書には、素敵な旅が用意されている。一五九八年の謝肉祭の期間中に最初のオペラ『ダフネ』がヤコポ・コルシ邸で上演された都市フィレンツェに始まり、販売を目的とした楽譜が一五〇一年にはじめて印刷されたヴェネツィアに足を伸ばしてから、一六世紀以降ヨーロッパ中の歌手がヴァティカン宮殿システィーナ礼拝堂の聖歌隊員になることを目指した教皇都市ローマでの音楽文化を堪能し、最後に北イタリアはベルガモに「黙する楽器の画家」が奏でる響きに親しむこの旅程を楽しんでいただきたい。