紹介
視線という擬似的なメスによって、皮膚を剥がされつつある都市――本書を貫くのは、このイメージである。ここで言う皮膚とは、単なる被覆物や表層の擬人的メタファーではない。内部と外部とが互いに絶えず陥入しあい、可視的なものと不可視のものとが反転をくりかえす、撞着と葛藤のトポスである。表層の崩落は、終焉の予兆であり、あるいは凋落と頽廃の反映である。カナレットの描いたヴェネツィア、ピラネージが再現しようとした古代ローマ、……ルドゥーが不遇の晩年に夢見たユートピア、フランス革命期のアポカリプティックな建築表象、そして一九世紀文学が描きだした比喩としての腐爛の皮膚と血膿。ここで問題となるのは、建築や身体そのものではなくそのイメージである。
目次
序 章 建築の解剖学──その皮膚と骨格
第1章 都市の「語り」と「騙り」──カナレットのヴェネツィア表象にみる都市改変の原理
第2章 「起源」の病と形態の闘争──ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージによる古代ローマ表象
第3章 適合性と怪物性──クロード=ニコラ・ルドゥーの両極的性質
第4章 建築の斬首──フランス革命期の廃墟表象における瞬間性と暴力性
第5章 石の皮膚、絵画の血膿───一九世紀文学における「病める皮膚」のモティーフ
エピローグ 眼差しのディセクション
註
参考文献
解 題 廃墟の皮膚論──あるいは、紋章の解剖/解剖の紋章 田中純
あとがき
人名索引