紹介
次の世代のために芸術作品を守ることが、ナショナル・ギャラリーの重要な役割である。現代の修復哲学は、過去のそれとはかなり異なっている。今日、強調されるのは、絵画の組成をできるだけ変えないような方法で、持続的な安定を確保することである。しかしながら、ワニスの変色や古い加筆によって、絵画が不明瞭になっていれば、画面の洗浄もおこなわれる。古くから嘆賞されてきたイメージもその姿を変える。これがしばしば懸念や議論の種となる。このポケットガイドは、わかりやすい言葉で、絵画の保護や検査のプロセスを明らかにするものである。絵画の物理的特徴、ならびに、その変質——自然なものもあれば、過去の修復家の手になるものもある——について論じ、さらに、板絵やカンヴァス画に施されてきた主な保存処置、洗浄や修復にまつわる諸問題にふれている。ナショナル・ギャラリー所蔵の名作に関する事例研究は、作品の保存担当者が直面する複雑で多様な問題を、浮き彫りにすることであろう。
目次
緒言
序文
保存の歴史
絵画の素材と構造
変化と劣化
修復対保存
現代の保存方法
洗浄と修復へのアプローチ
修復問題の考察
隠された損傷
趣味の変化にあわせて改変された絵画
除去できないワニス
裏打ちなし、ワニスなし
大規模な復元
古い加筆の問題
戦略的補彩
洗浄の必要性
断片の再構成
より深く理解するための読書