紹介
今号の『VOL』の第一特集はベーシック・インカムです。前号の座談会(「政治とはなにか」)でもすでに示唆されていたように、このテーマは「政治」の可能性を考える。もしくは「政治」の継続を志向するうえで、いまや避けては通れない、非常に重要なテーマを議論していきます。
第二特集は、「『シネマ』をめぐって」です。日本では、80年代以降の独特な思想状況の中で、『シネマ』は、映画至上主義的な価値観で評価もしくは批判されたり、言及されている映画そのものに作家主義的に引っ張られるなどして、誤読されることの方が多かったのではないかと思います。もちろん、哲学的、映画論的に真摯なアプローチは少なくないですが、極論すれば、まだ『シネマ』を検証できる土壌がなかったのだと言えるでしょう。ですから、今回の特集および座談会では、翻訳を契機として、映画=世界であるところの『シネマ』について、その潜在性を様々な形で引き出していけるような議論ができればと考えています。また、緊急特集では、『大阪「長居公園テント村強制排除」から考える』や、『新しいアナーキズムの哲学』のインタビューを掲載しています。
目次
特集1 ベーシック・インカム――ポスト福祉国家における労働と保障
座談会
山森亮、萱野稔人、酒井隆史、渋谷望、白石嘉治、田崎英明
「ベーシック・インカムとはなにか」
・ベーシック・インカムをめぐって
・ベーシック・インカムが導く問い
・労働と価値形成――「尺度」をめぐって
・国家とカネ
・ふたたびベーシック・インカムをめぐって
インタビュー
小泉義之
「ベーシック・インカムの「向こう側」」(聞き手 白石嘉治、矢部史郎)
堅田香織里
「ベーシック・インカムを語ることの喜び」(聞き手 白石嘉治)
論考
アンドレア・フマガリ+ステファノ・ルカレリ
「認知資本主義下におけるベーシック・インカムと対抗権力」木下ちがや訳
Basic Income and Counter-power in cognitive capitalism
Andrea Fumagalli&Stefano Lucarelli
アントニオ・ネグリ
「無条件かつ普遍的な所得保証へ――アンドレ・ゴルツ『現在の貧困、可能なるものの豊さ』をめぐって」和泉晃訳
Recension. Misères du présent, richesses du possible de André Gorz
Toni Negri
マウリツィオ・ラッツァラート
「所得を保証すること――マルチチュードのための政治」中倉智徳訳
Garantir le revenue : une politique pour les multitudes
Lazzarato, Maurizio
アラン・カイエ
「しかるべく20世紀と決着をつけるために」谷口清彦訳
Pour sortir dignement du xxe siècle : temps choisi et revenu de citoyenneté
Alain Caillé
廣瀬純
「ベーシック・インカムの上下左右――運動なきBIはつまらない」
宇城輝人
「労働と個人主義――ロベール・カステルの所説によせて」
入江公康
「“能動的”賃金、回帰する政治――賃金闘争史をベーシック・インカムに」
エッセイ
矢部史郎
「魂の戦争が始まる」
松本麻里
「彼女らが知っていること、知っていたこと」
小林勇人
「冗談でも、本気ならなおさら、”Don’t Kill Me!”――ニューヨークのワークフェア政策の「現実」」
特集2 ドゥルーズ 『シネマ』
座談会
鵜飼哲、田崎英明、平沢剛
「ドゥルーズ『シネマ』をめぐって」
・『シネマ』への接近
・マイナー生成と〈外〉の志向
・戦争、暴力、そして「民衆=人民が欠けている」
・「この世界を信じる理由」
往復書簡
『シネマ』/往復書簡
松本潤一郎「ジャンルと門外――『シネマ2 時間イメージ』をめぐる、宇野邦一への4つの質問」
宇野邦一「離れ離れのインタビューあるいは妄言」
『シネマ』翻訳者より
石原陽一郎「世界への信頼 ドゥルーズとカベル」
江澤健一郎「写真という鋳型の時間」
大原理志「アレクセイエフの時間」
岡村民夫「なぜシネマか 『シネマ2 時間イメージ』から」
インタビュー
仲里効
「歴史を逆撫でにしていく映画の方法」(聞き手=平沢剛、矢部史郎)
論考
ジャック・ランシエール
「あるイメージから別のイメージへ? ドゥルーズと映画の諸時代」三輪誠一郎訳
D’une image à l’autre? Deleuze et les âges du cinéma
Jacques Rancière
ローラ・U・マークス
「時間の記号――ドゥルーズ、パース、ドキュメンタリー映像」笹田恭史訳
Signs of the Time
Laura U. Marks
ジョナサン・ベラー
「『シネマ』は20世紀の『資本論』か?」石岡良治訳
“CAPITAL/CINEMA,
Jonathan Beller
古畑百合子
「ドゥルーズと映画と「この世界」」
友常勉
「「アジア全体に現れている疲労の感覚」――賈樟柯(ジャジャンクー)『三峡好人(サンシャハオレン)/スティル・ライフ』」
エッセイ
江川隆男
「死体を触発する」
渋谷哲也
「ファシズムへの抵抗とイマージュへの信頼」
radio maroon
「君は本当に欲しいものを手に入れられる」
五所純子
「A級現行犯」
インタビュー連載
デヴィット・グレーバー
「新しいアナーキズムの哲学」(聞き手・高祖岩三郎)
緊急特集 大阪「長居公園テント村強制排除」から考える
原口剛
「都市再編のなかの公共空間――大阪・テント村をめぐる状況」
綱島洋之
「「支援者」という言葉を再び骨抜きにするために」
山西麻依
「彼らはなぜ踊り、演じたのか」
VOL/CRITIC
二木信「Freestyle Wars」
村上潔「「戸籍がない子にもパスポートを!」という運動」
成田圭祐「「Ungdomshuset」をあらゆる場所に」
グレープフルーツ「自己決定と責任」
一色こうき「グライム」
入江宗則「『幽閉者』、貧しさとともに物語ること」
佐藤由美子「ポエトリー・イン・ザ・キッチン」
藤沼亮「戦奏、旋争機械」
中村葉子「ブラック・ダイヤ・パラダイス 『フラガール』の女たち」