目次
序章 移民/難民と向き合う社会をめざして[錦田愛子]
■「国際化」する日本
■「今そこにいる人々」と向き合う
■「自分とは違った人たちとどう向き合うか」
■「包摂と排除」を越えて
■「移民/難民」のシティズンシップ
■各章の内容
■多様な生き方への尊重
第1部 移民/難民の政治参加の保障のあり方
第1章 民主主義諸国における移民の社会統合の国際比較――権利レベルと実態レベル[近藤敦]
はじめに
1.政治参加
2.永住許可
3.国籍取得
4.労働市場
5.家族呼び寄せ
6.教育
7.差別禁止
8.保健医療(健康)
おわりに――インターカルチュラリズムとしての多文化共生
第2章 難民及び庇護希望者の労働の権利――難民条約と社会権規約の比較検討[小坂田裕子]
はじめに
1.難民条約における労働の権利
2.社会権規約における労働の権利
3.考察
おわりに
第3章 リベラルな社会はいかなる意味で多様な集団に対して「寛容」でありうるか――「中立性」概念の検討を手がかりに[白川俊介]
はじめに――岐路に立つ多文化主義とリベラリズム
1.リベラリズム・寛容・中立性
2.「中立である」とはどのようなことを意味するのか
3.「リベラルな文化主義」はいかなる意味での「中立性」を擁護するのか――ウィル・キムリッカの説明
4.「処遇の中立性」の擁護と「平等な承認」――アラン・パッテンによるキムリッカ批判
5.「リベラルな文化主義」はいかなる意味で「リベラル」であるべきか――パッテンによるキムリッカ批判の含意
むすびにかえて
第2部 法と政治という暴力――奪われるシティズンシップ
第4章 難民から無国籍者へ――身分証明書が持つ暴力性[陳天璽]
はじめに
1.国籍と個人
2.在留管理制度の導入と無国籍者の類型
3.難民の国籍、身分証明書、アイデンティティ
おわりに――身分証明書が持つ暴力性
第5章 イギリス海外領土からの強制移動[柳井健一]
はじめに
1.バンクール事件――事件の背景
2.訴訟におけるマグナ・カルタ
3.現行法としてのマグナ・カルタ
4.権利章典としてのマグナ・カルタ
結語
第3部 移民/難民による政治・社会の再構築
第6章 コミュニティを御する人びと――北部ウガンダにおける人の移住とその暮らし[飛内悠子]
はじめに
1.ウガンダの国籍法と難民政策
2.マディ・ランドと南スーダン
3.ビヤヤ(Biyaya)
4.共同体を御する場
結論
第7章 環流する知識と経験――難民の「帰還」とシティズンシップ[久保忠行]
1.移民/難民とシティズンシップ
2.タイ・ビルマ国境の移民/難民
3.難民キャンプの政治性
4.環流する知識と経験
第8章 スーダン・ヌバ難民キャンプからの報告――シティズンシップの連続と断絶[佐伯美苗]
はじめに
1.近代スーダンとヌバの成立
2.紛争とヌバ
おわりに
第4部 人口割合がもたらす政治的・社会的インパクト
第9章 東マレーシア・サバ州における越境のポリティクス――フィリピン系ムスリム移民/難民の事例を中心に[床呂郁哉]
はじめに
1.フィリピン南部/サバ間の人の越境的移動の概要
2.サバへのインパクト――人口動態への影響
3.受入国への社会的・政治的影響
4.移民/難民の越境的移動の背景
結語
第10章 パレスチナ難民のシティズンシップ――ヨルダンとレバノンにおける移民/難民の人口増加が与える政治的影響[錦田愛子]
はじめに
1.人口統計からみるディアスポラのパレスチナ人
2.ヨルダンのパレスチナ難民
3.レバノンのパレスチナ難民
4.難民の人口比とシティズンシップ
第11章 なぜ男性移民は社会から排除されるのか?――UAEとカタルにおける人口男女比の不均衡がもたらす政治社会問題[堀拔功二]
はじめに
1.GCC諸国における人口バランス問題と男性移民
2.都市部における男性移民の集住と隔離
3.公共空間における男性移民の排除
おわりに
前書きなど
序章 移民/難民と向き合う社会をめざして
(…前略…)
■各章の内容
本書の第1部は、法学および政治哲学の分野で、移民/難民のシティズンシップの保障について、どのような議論や検討がされているか論じる。
第1章で近藤は、受け入れ各国が社会統合を促すためにとる法的枠組みや、その結果としての移民/難民の権利保障の状況について、移民統合政策指数(Migrant Integration Policy Index: MIPEX)および移民統合指標などの評価を通して概観する。(……)
第2章で小坂田が論じるのは、難民または庇護希望者に労働の権利はどの程度認められるのか、法学の見地からの議論である。主な論点は、難民条約と国際人権規約の社会権規約とでは、どちらがより手厚い保護を規定しているのか、という問いである。(……)
第3章で白川は、マイノリティを守る枠組みとして、特定の集団を利することのないよう、国家が依って立つべき「中立性」とは何かについて、政治哲学上の議論を紹介する。(……)
第2部は、法の改正や政治的決定の執行などにより、それまでと変わらぬ生活を維持しようとしていた移民/難民のシティズンシップが脅かされる状況を取り上げる。
第4章で陳は、日本の在留管理制度の変更に伴い、非顕在化する無国籍者の問題について取り上げる。(……)
第5章で柳井が取り上げるのは、積極的に移住を選んだわけではなく、イギリス政府により軍事上の理由で住民の強制退去が決められ、故郷へ帰還できなくなってしまった英領インド洋地域チャゴス諸島の住民の権利をめぐる裁判の事例である。(……)
第3部は、紛争により移民/難民となった人々が、移動先の地で再構築するコミュニティや言語教育と、それらがもつ政治的意味合いについて論じる。
第6章で飛内は、ウガンダ北西部のアジュマニ県に住む南スーダン難民についての調査に基づき、度重なる紛争で人々が国境を何度も越えて移動し、新たにコミュニティを形成していく様子を描出している。(……)
第7章で久保は、ビルマを逃れてタイの国境地帯に暮らすカレンニー難民の民族言語教育に着目する。(……)
第8章で佐伯は、スーダン南部の南コルドファン州のヌバ山地から、南スーダン共和国へ逃れた難民の形成する難民キャンプに注目する。(……)
第4部で論じられるのは、移民/難民が極端な割合で増加して、受入国社会でのシティズンシップをめぐる状況に影響をもたらした特殊な社会についてである。東南アジアと中東における事例は、それぞれ移民/難民の増加が当該国に深刻な政治的課題を与えた様子を示す。
第9章で床呂は、マレーシアでのフィリピン系移民/難民に対する不正な手段での市民権の付与という疑惑をめぐり、2012年に組織された王立調査委員会の報告書に記載された証言に基づく実態を検証している。(……)
第10章で錦田は、パレスチナ難民が周辺アラブ諸国であるヨルダンとレバノンでおかれた法的地位と政治的プレゼンスの違いについて論じる。(……)
第11章で堀拔は、中東湾岸地域のGCC諸国の中で、UAEとカタルを取り上げ、外国人労働者の増加が生んだ社会的な摩擦について論じる。(……)
(…後略…)