目次
第1章 「他者」と学ぶ教育原理とアクティブラーニングの授業デザイン[佐藤智子]
1 大学教育におけるアクティブラーニング
2 大学生の学修の実態
3 アクティブラーニングの定義と課題
4 デューイの教育論からみるアクティブラーニングのあり方
5 授業の実践例:「学習理論入門」
6 アクティブラーニングの限界を超えた授業デザインへ
第2章 社会的マイノリティとの「対話」に向けたボランティア学習[江口怜]
1 ボランティア学習は世界を開くか
2 授業の実践例:「共生社会に向けたボランティア活動」
3 学生Aさんの学びの軌跡─野宿者支援の現場と向き合って
4 他者との出会いから学びを生み出すために
第3章 言語と文化の違いを超えて学生が学び合う国際共修授業[髙橋美能]
1 国際共修授業発展の背景
2 東北大学の現状
3 国際共修授業における教育実践上の工夫
4 学習テーマとしての「人権」
5 別のテーマで実践した事例
6 学習テーマの選定と多様性を生かす教育実践
第4章 「言語の壁」を超えるトランス・ランゲージングの学び合い[島崎薫/プレフューメ裕子]
1 国際共修におけることばや言語の問題
2 「言語の壁」とは何か
3 トランス・ランゲージング
4 実践例:「Humans of Minamisanriku」
5 トランス・ランゲージングにおける学び
6 国際共修におけるトランス・ランゲージングの意義と今後の展望
第5章 コミュニティとの協働から学ぶサービス・ラーニング[菊池遼/藤室玲治]
1 サービス・ラーニングがコミュニティで果たすべき役割とは
2 被災地域のコミュニティとのサービス・ラーニング授業の成立経緯
3 授業の実践例:「被災者の生活再建・コミュニティ形成の課題とボランティア活動」
4 サービス・ラーニングはコミュニティにとって有効か
第6章 アートプロジェクトから学ぶ教養としての創造的思考[縣拓充]
1 アートプロジェクトと学び
2 教養としての創造的思考
3 千葉アートネットワーク・プロジェクト(WiCAN)
4 ワークショップ体験授業
5 アーティストとの協働によるプロジェクト
6 アーティストからの学びの機会をより有意義なものにするために
前書きなど
「他者」との協同的な学習が推奨される教育現場で、いかに効果的な学習を促し、学習者の自律と社会的な共生を促すことができるのか。アクティブラーニングなどの実践から「多様性」が拓く学修の可能性を検討し、大学での教養教育デザインを再考する。
本書の目的は、学習を社会的文脈から捉え直し、「多様性」の中で「他者」と学ぶ意味と方法について検討することである。「他者」と学ぶ教育においては、学習者が他者との接触を通じて心理的・文化的・社会的差異を体験・超克すると同時に、「自己」を発見し確立していくことが目指される。さらには、このような「他者」と「自己」との出会いを通して、社会的な共生を実現することが期待される。このような教育のあり方を考えることは、現代の教育においては以前に増して重要な課題となっている。
本書では、前提として、一人ひとりが多様な文化を持つ存在であると理解する。このような「多様性」は、国籍や民族だけでなく、ジェンダーや年齢・世代、地域(出生地や居住地)、それらを基盤とした個々の生活経験や感性や価値観、学問や職業における専門領域等の違いによって、個人間あるいは集団間に生じる差異が基盤となっている。その差異がコミュニティの中で多様に存在し、その状態が認知され、そして承認される状態を「多様性」と捉える。その上で、そのような差異をいかに受容しつつ、そこに生じる心理的な障壁を越境するのかという点に焦点を当てながら、「他者」と学ぶための教育デザインについて考察する。併せて、その中で大学や教員が果たすべき役割、大学における学士課程教育のあり方についても提案する。