目次
はじめに
第一部 児童相談所の児童虐待対応
第一章 あらためて児童虐待とは何なのか
1.常識としての「児童虐待」
2.定義の限界
3.児童虐待概念の源流
4.二つの児童虐待
5.児童虐待の本質
第二章 現在の児童相談所の課題
1.児童虐待対応の基本的枠組み
2.児童相談所の相談援助のしくみ
3.児童相談所の専門性
4.児童福祉としての児童虐待対応
第三章 児童相談所の葛藤
1.児童虐待の現状
2.児童相談所での相談対応の変化
3.本来の児童相談所の役割
4.一時保護という劇薬
5.司法関与の流れ
6.司法関与の期待と課題
7.児童相談所の矜持と責任
コラム 温故知新――一時保護から考える児童相談所のこれから
第二部 児童虐待と子どもの権利
第四章 わが国の子どもの権利の現状
1.子どもの権利条約について
2.わが国の国内法における未成年者の人権享有主体性
3.個別の法規での顕れ
第五章 子どもの人権侵害としての児童虐待
1.法律上の「児童虐待」の定義
2.子どもから見た児童虐待(人権侵害としての児童虐待)
3.児童虐待が子どもに与える影響
第六章 虐待対応の法的課題
1.具体的な対応策
2.児童福祉法二八条の申立て
3.親権停止と親権喪失
4.一時保護について
第七章 子どもの人権と一時保護
1.一時保護の実情
2.一時保護所での権利制約
3.一時保護所における様々な権利制約
コラム 精神科医療における非自発的入院での人権的配慮
第八章 子どもの意見表明権のあり方
1.子どもの権利条約一二条について
2.少年司法制度について
3.家事事件制度について
4.一時保護が行われた子どもの意見表明権
コラム 「子どもの最善の利益」と何か――「最善の利益」と「意見表明権」の関係を考える
第三部 一時保護児童の意見聴取の実践と課題
第九章 弁護士による子どもの意見聴取
1.意見聴取の実施
2.子どもたちの意見
第十章 弁護士による意見聴取の効果と今後の課題
1.子どもの意見の概要
2.保護所の課題
3.意見聴取の方法に関する課題
4.聴取者の立場
5.誰のための聴取か
コラム 児相内弁護士
第十一章 児童相談所での子どもの意見聴取の取り組みを振り返って
1.準備の段階
2.子どもの意見を聴く段階
3.子どもの意見を活かす段階
4.必要な手続きを紹介する段階
終章 児童相談所が子どもたちから学んだこと――「意見を聴かれる子どもの権利」の実現に向けて
1.大人中心の児童相談所
2.大人の意図や解釈で作成された記録
3.子どもに忖度されている児童相談所の方針
4.子どもと向き合う姿勢の再確認
おわりに
前書きなど
はじめに
児童相談所は、子どもの意見表明(「意見を聴かれる子どもの権利」)を、どのように実現していくことができるだろうか。
(…中略…)
本書では、二〇一八(平成三〇)年から岡山県および岡山市の児童相談所で試行的に行っている弁護士による一時保護所を対象とした「子どもの意見を聴く」活動を中心に、児童福祉および精神医学の立場からの議論も加えて、子どもの視点に立った児童相談所の役割を検討する。
子どもの虐待死による社会的関心の高まりを背景に、児童相談所の「機能強化」が進められ、これまでの児童福祉司や児童心理司の増員などに加えて、弁護士や医師などの専門職が積極的に関与する制度に移行しつつあるが、その具体的な役割については議論が遅れている。介入と支援の狭間で葛藤し続けている児童相談所において、専門職としての立ち位置も両価的にならざるをえないが、子どもの権利の視点から児童虐待を再考することで、児童相談所の果たすべき役割の方向性を提唱する。
今年(二〇一九年)は、子どもの権利条約が国連総会で採択されて三〇周年、日本が同条約を批准して二五周年の節目の年に当たる。私たちは、この節目の年を、子どもの支援に携わる大人が、子どもの意見から学び、子どもと共に、子どもを中心とした児童福祉施策へと転換していくためのスタート地点にしたいと考えている。本書は、そのための第一歩である。