目次
刊行にあたって シリーズ・学力格差 全4巻[志水宏吉]
はじめに[若槻健]
第Ⅰ部 問題設定と調査の概要
第1章 調査の目的と問題設定[若槻健]
1.調査の目的
2.問題設定
第2章 調査の概要[知念渉]
1.はじめに
2.調査の特徴
3.X市および学校区のプロフィール
4.おわりに
第3章 学力の経年変化と階層間格差――X市の学力パネル調査から[中村瑛仁]
1.はじめに
2.データの概要
3.学力の基本的傾向と経年変化
4.学力と子どもの学校・家庭生活
5.学力の階層間格差
6.まとめ
第Ⅱ部 エスノグラフィー篇
第4章 学習規律の形成と個に応じた特別支援――キタ小[川畑和久・西徳宏]
1.はじめに
2.キタ小の教育理念と取り組み
3.児童の学校経験
4.まとめと考察
第5章 子ども同士の支え合いを通じた学力保障――ミナミ小[伊藤駿]
1.はじめに
2.ミナミ小の教育理念と取り組み
3.児童の学校経験
4.まとめと考察
第6章 共に学び自立を目指す学校文化――キタ中[数実浩佑]
1.はじめに
2.キタ中の教育理念と取り組み
3.生徒の学校経験
4.まとめ
第7章 「しんどい子」の学力を下支えする――ミナミ中[伊藤莉央]
1.はじめに
2.ミナミ中の教育理念と取り組み
3.生徒の学校経験
4.まとめと考察
第Ⅲ部 分析篇
第8章 子どもたちの変化と学校の取り組み――何が学力形成の要因か[若槻健]
1.はじめに
2.キタ中校区とミナミ中校区の学力の推移
3.低学力層への学校のアプローチ
4.低学力のままおよび学力を下げた児童生徒
5.低学力から脱する兆しをみせた児童生徒
6.学習形態と学力
7.まとめ
第9章 学校はいかに学力格差に向き合っているのか――学力格差の取り組みと同和教育との関係性を考える[知念渉]
1.はじめに
2.低学力層へのアプローチの違い
3.同和教育の実践はなぜ広がらないのか?
4.おわりに
第10章 学力保障につながる班学習とは――中学1年生数学の比較から[新谷龍太朗]
1.問題関心
2.先行研究
3.キタ中学校とミナミ中学校の班学習の比較
4.考察
補論 学力保障――公正な教育を求めて[髙田一宏]
1.はじめに
2.学力保障の意義と積極的格差是正策の必要性
3.マイノリティと学校
4.教育における公正
5.おわりに――二つの中学校区の取り組みをどうみるか
おわりに[志水宏吉]
監修者・編著者 略歴
前書きなど
刊行にあたって シリーズ・学力格差 全4巻
「学力低下の実体は学力格差の拡大である」という主張を、監修者らの研究グループが行ってから15年あまりが経過した。小中学生の「学力の2こぶラクダ化」という言葉で表現したが、そうした見方は今日では日本の学校現場の常識となっている。
いわゆる学力低下論争が勃発したのは、1999年のことであった。日本の子どもたちの学力が、もはや世界のトップではないことを示したPISA第1回調査の結果が、それを後押しした。2003年に文部科学省は、それまでの「ゆとり教育」路線を「確かな学力向上」路線に転じた。そして、2007年には全国学力・学習状況調査がスタートした。今日それは、小中学校現場の年中行事として定着した感がある。点数学力を中心に学校が動いていく状況は、今後もしばらく変わりそうにない。
日本の子どもたちの学力低下は、一体どうなっているのだろうか? 学力格差の状況はよくなっているのか、あるいは悪化しているのか?
全国学力・学習状況調査の結果を見ると、学力上位県と下位県の格差は順調に縮まっているようである。3年おきに実施されるPISAの結果でも持ち直した感がある。その他の調査の結果を含めて考えると、日本の子どもたちの学力は、一時期落ち込んだが、その後はある程度回復していると総括することができる。
ただし、21世紀に入ってからの日本社会の経済的格差状況は変わっていない。ことによると、ひどくなっているかもしれない。そのなかで、学力調査の結果が改善傾向にあるのは、ひとえに学校現場ががんばっているからに他ならないというのが、私たちの実感である。諸外国に比べると、格差是正に費やされる国費の額はきわめてお寒いのが日本の実態である。もし現場が手をゆるめると、学力格差がもっと拡大していくおそれが多分にある。
学力格差の是正は世界各国の共通課題である。現時点の日本に、そして世界に、何が起こっているのか。それを教育社会学の観点から探究したのが本シリーズである。15年以上にわたって学力格差の問題を追いかけてきた監修者は、2014年度に科研費を獲得し、5年間にわたる総合的な研究プロジェクトに着手した(科研費基盤研究(A)「学力格差の実態把握と改善・克服に関する臨床教育社会学的研究」、研究代表:志水宏吉、課題番号:26245078)。本シリーズは、その成果を4巻本にまとめたものである。参加した研究分担者は18人、協力した大学院生は20人以上にのぼる。
本シリーズの特徴をあげると、以下のようになる。
1)教育社会学という学問分野の最新の問題意識に立つものであること。
2)その結果として、学力格差研究の最先端を行くものであること。
3)「家庭」「学校」「統計」「国際比較」という複合的視点を有していること。
4)3~4年にわたる定点観測的な経時的調査研究にもとづいていること。
5)現状分析にとどまらず、積極的に格差是正の提案・提言を行っていること。
各巻の主題は、以下の通りである。
(…中略…)
第3巻〈学校編〉『学力格差に向き合う学校』では、対象校における3年間にわたるフィールド調査をもとに、子どもたちの学力の変化について検討する。対象となるのは、都市部の同一自治体に所在する、異なる社会経済的背景の地域を持つ2つの中学校区の学校(各1小学校、1中学校)、計4校である。子どもたちの家庭背景をふまえた上で、彼ら、とりわけ低学力層の学校経験や学力形成の動態を捉え、学力格差の拡大・縮小のダイナミクスを解明する。
(…中略…)
各巻の中身は、数年にわたって展開された、用意周到な学術調査・研究にもとづくものであるが、幅広い層の読者に読んでいただきたいと考え、できるかぎり平易で、ていねいな記述を心がけた。
現代の学力格差研究の決定版として、自信をもって世に送り出すものである。