目次
「移民・ディアスポラ研究」8の刊行にあたって[駒井洋]
序章 はじめに――移民受け入れと日本の人口・階層構造の変化[是川夕]
第Ⅰ部 低出生力下における移民流入の人口学的影響
第1章 人口問題と移民――日本の経験[是川夕]
第2章 ヨーロッパ諸国における労働力人口の変動に対する国際移民の寄与[ジル・スピルボーゲル/ミケーラ・メグナジ(訳:是川夕)]
第3章 東アジアにおける国際人口移動のパターン[シャフェイ・グー/エリック・フォング(訳:是川夕)]
第Ⅱ部 移民の階層的地位変動――第一世代に焦点を当てて
第4章 日本における移民の地位達成構造――第一・第二世代移民と日本国籍者との比較分析[石田賢示]
第5章 日本における外国籍者の階層的地位――外国籍者を対象とした全国調査をもとにして[永吉希久子]
第6章 高度人材移民の移住過程――来日する中国人留学生の事例を通じて[馬文甜]
第7章 教育達成を通じた移住過程としての日本語学校――「日本の中長期在留外国人の移動過程に関する縦断調査(PSIJ)」を用いた分析[是川夕]
第Ⅲ部 世代を超えた移民の階層的地位変動
第8章 リーマンショック後の南米系住民の動向と第二世代をめぐる状況[松宮朝]
第9章 移民第二世代の文化変容と学業達成――大阪の中国帰国生徒を中心に[鍛治致]
第10章 ベトナム系第二世代の学校から仕事への移行――変わりゆく機会構造[平澤文美]
第11章 フィリピン系移民第二世代の階層分化とエスニシティの日常的実践――エスニシティは上昇移動の資源か、障壁か[額賀美紗子]
書評 田巻松雄/スエヨシ・アナ編『越境するペルー人――外国人労働者、日本で成長した若者、「帰国」した子どもたち』[駒井洋]
書評 川本綾著『移民と「エスニック文化権」の社会学――在日コリアン集住地と韓国チャイナタウンの比較分析』[駒井洋]
編者あとがき[是川夕]
前書きなど
「移民・ディアスポラ研究」8の刊行にあたって
(…前略…)
シリーズ第8号のメインタイトルは、「人口問題と移民」とすることにした。日本社会は少子高齢化時代に突入し、それにともないこれから人口が急速に減少していくことは確実である。それに対処する方策として、移民の導入にたいする一般的期待が高まっている。それにたいして、移民導入による人口減少への対応は、その量があまりに多大となるので非現実的だというのが、本書を貫流する基本的前提である。
しかしながら、移民の一定の受け入れがこれから必然的に進展していくことは疑えない。その結果、受け入れ社会である日本にどのような人口社会学的な影響が現れるかを明らかにしたいということが、本書の主要な問題意識である。本書のサブタイトルは「日本の人口・階層構造はどう変わるのか」であるが、重点は階層構造に置かれている。
本書は3部から構成されている。第Ⅰ部は、移民受け入れへのシフトを意味する「国際移動転換」が日本にも波及したことを、ヨーロッパや東アジア諸国の経験と照らし合わせながら解明する。第Ⅱ部および第Ⅲ部は、移民集団別にみた階層構造とその変動の様態を検討する。第Ⅱ部は地位達成構造に焦点を当てながら移民の第一世代を、第Ⅲ部は代表的な移民集団の第二世代の地位達成構造を、検討の主たる対象とする。
第Ⅱ部の4論文のうち2論文は、全国的標本抽出にもとづくデータに依拠し、1論文は調査会社に登録されている対象者にたいするウェブ調査にもとづく全国調査であるという点で、特筆されるべき方法的特徴を共有している。こうして、日本全体の数量的分析が初めて可能となった。これは、これまでの日本の量的移民研究が果たせなかった課題であった。
本年4月から、新在留資格による外国人労働者の本格的な導入が開始された。あくまでも移民ではないという建前は保持されているものの、日本社会への影響は今後少なくないと思われる。本書の知見が、日本の本格的な移民政策の樹立に寄与することを切望する。