目次
刊行のことば[首藤明和]
はじめに 構造変動下にある中国の村をとらえるための課題[南裕子]
1.本書のねらい
2.中国農村部の構造変動の諸相
2-1 村の領域の変化
2-2 村と郷鎮政府の関係の変化
2-3 村の常住人口の構造変化
3.変動のとらえ方
4.本書の課題と構成
4-1 本書の課題
4-2 本書の構成
第一部 激変する村の底流にひそむ力とその可能性
第1章 アウトロー的行為の正しさを支える中国生民の正当性論理――天津市武清区X村の団地移転を事例として[閻美芳]
1.不条理を生きる農民の正当性主張
2.団地移転の不条理
3.農民を団地に移転させる「団地移転プロジェクト」
3-1 村の概況
3-2 X村における「団地移転プロジェクト」の導入
3-3 団地移転に抵抗する2つの事例
3-4 分離戸に託した生活保障機能
4.移転しない・する村びとの生活実践
4-1 開墾農地による生活水準の向上
4-2 団地移転後の権利主張
4-3 楼房の物業管理費を払わない
5.正しい行為を支える論理
5-1 天経地義の権利
5-2 「正しい」行動を支える人びとの共通観念
6.おわりに
第2章 農村公共サービス制度の変動と村落ガバナンス――成都市の「経費進村」を事例として[陳嬰嬰・折暁葉(訳・南裕子)]
1.はじめに
2.村の公共サービスの苦境――「村の機能不全」
3.成都市の事例:「経費進村」――政府が推進する制度変化
3-1 「経費進村」の制度設計
3-2 主体は村民――民主的意思決定,監督,情報のフィードバック
4.村の対応――外からの制度の受容
4-1 公共利益の再構築
4-2 村での協議と意思決定――公正の原則とローカルな知識
4-3 「こと(事)」がもたらした村の新たなアイデンティティと参加
5.おわりに――村の公共サービス制度と村の公共秩序,公共ガバナンスの再建
第二部 観光開発に向き合う村の自律性
第3章 農家楽山村の議事にみる公の生成――宗族単姓村である北京市官地村を事例として[閻美芳]
1.村びとのプライバシーと公
2.礼治の原理と「良心」
3.宗族からみる村長の選出と評価
3-1 村の概況と宗族結合
3-2 官地村における農家楽経営と女性の活躍
3-3 宗族と村落の選挙
3-4 親子間における人物評価
3-5 農家楽経営権の賃貸料金をめぐる情報の共有
4.オープンな「公」の生成原理
5.おわりに
第4章 中国農村における地域社会の開放性と自律性――北京市郊外一山村の観光地化を事例として[南裕子]
1.はじめに
2.村の開放性と自主性,自律性をめぐる議論
2-1 村落社会論
2-2 観光開発と地域社会
2-3 本章の課題
3.官地村における地域の開かれ方
3-1 官地村概況
3-2 官地村農村ツーリズムの形成と混住化
4.官地村農村ツーリズムにかかわる主体とその相互関係
4-1 村外の主体との関係
4-2 村集団と村民,および村民同士の関係
5.官地村ツーリズムに見る地域の開き方と地域の自律性
6.おわりに
第5章 「留守」を生きる村――中国東北地域の朝鮮族村の観光化に着目して[林梅]
1.はじめに
2.少数民族としての中国朝鮮族
3.延辺朝鮮族自治州とG村の概要
4.G村の観光化の取り組み
5.「受動的立場」と「主導的立場」の関係
5-1 観光資源化とその「正統性」
5-2 担い手としての「他者」
5-3 朝鮮族の「よそ者」
5-4 村の有力者
6.おわりに
第三部 人口流動化の中の村の存続戦略
第6章 「対立」から「融合」と「管理」へ――流動人口のネットワークをめぐる流入地での戦略[陸麗君]
1.問題意識
2.先行研究について
2-1 概念の整理
2-2 流動人口の社会融合についての先行研究
2-3 流動人口と同郷的ネットワーク
3.調査地の概況
4.Z鎮流動人口の社会融合と同郷的ネットワーク
4-1 圧力団体――労災、賃金に関するトラブルにおける同郷的ネットワークの役割
4-2 「新旧Z鎮人和諧聯誼会」の設立――社会融合促進の試み
5.流動人口への総合サービス
6.おわりに
第7章 中国都市にみる「村」社会と民間信仰――深センの「城中村」を中心に[連興檳]
1.圧縮された都市化とその影響
2.城中村の誕生――深センの農村都市化を事例に
2-1 城中村の特徴
2-2 深センからみた「村」社会の形成
3.村社会における民間信仰の意味――「宗族信仰」と「神明信仰」を中心に
3-1 宗族信仰
3-2 神明信仰
4.都市における「村」社会の現状――深センのSG村を事例に
4-1 SG村の概況
4-2 SG村の伝統的建築
5.「村」社会にみる民間信仰の変容――SG村の祠堂と廟を中心に
5-1 SG村の祠堂と宗族信仰
5-2 SG村の廟と神明信仰
6.おわりに――都市部の「村」社会は終焉を迎えたか
おわりに――「生成する村」の視点からとらえる中国の村[閻美芳・南裕子]
1.なぜ今,中国の農村にフォーカスするのか
2.「尺蠖の屈め」によって対応する中国農村
3.「生成する村」
3-1 研究史との対話
3-2 「生成する村」の平常時を支えるもの
3-3 社会主義体制下の「生成する村」
4.おわりに――「生成する村」から見る中国村落の今後
あとがき
索引
前書きなど
刊行のことば
21世紀「大国」の中国。その各社会領域――政治,経済,社会,法,芸術,科学,宗教,教育,マスコミなど――では,領域相互の刺激と依存の高まりとともに,領域ごとの展開が加速度的に深まっている。当然,各社会領域の展開は一国に止まらず,世界の一層の複雑化と構造的に連動している。言うまでもなく私たちは,中国の動向とも密接に連動するこの世界のなかで,日々選択を迫られている。それゆえ,中国を研究の対象に取り上げ,中国を回顧したり予期したり,あるいは,中国との相違や共通点を理解したりすることは,私たちの生きている世界がどのように動いており,そのなかで私たちがどのような選択をおこなっているのかを自省することにほかならない。
本叢書では,社会学,政治学,人類学,歴史学,宗教学などのディシプリンが参加して,領域横断的に開かれた問題群――持続可能な社会とは何であり,どのようにして可能なのか,あるいはそもそも,何が問題なのか――に対峙することで,〈学〉としての生産を志す。そこでは,問題と解決策とのあいだの厳密な因果関係を見出すことよりも,むしろ,中国社会と他の社会との比較に基づき,何が問題なのかを見据えつつ,問題と解決策との間の多様な関係の観察を通じて,選択における多様な解を拓くことが目指される。
確かに,人文科学,社会科学,自然科学などの学問を通じて,私たちの認識や理解があらゆることへ行き届くことは,これまでにもなかったし,これからもありえない。ましてや現在において,学問が世界を考えることの中心や頂点にあるわけでもない。あるいは,学問も一種の選択にかかわっており,それが新たなリスクをもたらすことも,もはや周知の事実である。こうした学問の抱える困難に謙虚に向き合いつつも,そうであるからこそ,本叢書では,21世紀の〈方法としての中国〉――選択における多様な解を示す方法――を幾ばくかでも示してみたい。
2018年2月 日中社会学会会長 首藤明和