目次
「シリーズ・子どもの貧困」刊行にあたって[松本伊智朗]
序章 「分断」に向き合い「つながり」を築く――本巻の問題意識と構成[山野良一]
1 平成という時代における社会保障と子どもソーシャルワーク
2 堆積する子どもの貧困をめぐる課題点
第Ⅰ部 社会保障と子どもの貧困
第1章 子どもの貧困と「社会手当」の有効性――防貧政策としての児童手当制度[北明美]
1 「子ども・家族関係給付の推移と子どもの貧困率」
2 防貧政策としての児童手当制度――近年の研究から
3 「財政制度等審議会」の児童手当「改革」案――所得制限をめぐって
4 有子世帯と現金給付
5 「再分配のパラドクス」再考
6 生活保護における児童養育加算と児童手当制度
第2章 社会保障とナショナル・ミニマム――〈福祉の論理〉から見た子どもの貧困と生活保護[岡部卓・三宅雄大]
1 社会福祉学から見た「子どもの貧困」
2 生活保護制度における政策動向――子どもの教育・学習保障を中心として
第3章 子どもの健康状態と医療保障を考える[寺内順子]
1 国保料滞納世帯にはどれだけの子どもがどれだけいるのか
2 いかに国民健康保険料(税)が高いか
3 子どもの医療費助成制度の現状
4 子どもたちの健康状態
5 子どものいのちと健康を守るためになにが必要か
第4章 子どもの貧困と住まい[葛西リサ]
1 放置され続ける居住貧困
2 低所得階層を置き去りにした日本の住宅政策
3 賃貸住宅に滞留する困窮層
4 民間賃貸住宅に居住する者の過密居住問題
5 過密居住が子どもたちの学習に与える影響
6 家計を圧迫する住居費
7 居所を失うという経験
8 居住不安にさらされる子どもの存在
9 単なる住宅の提供だけでは子どもたちの居住貧困は解決し得ない
10 地域コミュニティで支える子どもの生活
第Ⅱ部 ソーシャルワークの展開
第5章 子どもの居場所づくりとその実践(1)――戦後から高度成長期を中心に[加藤彰彦]
1 子どもの居場所づくりとその実践
2 戦争による家庭喪失と子どもたち
3 経済成長政策の弊害と子どもたち
4 子どもの居場所づくりへの模索
第6章 子どもの居場所づくりとその実践(2)――高度経済成長期以降の流れ[幸重忠孝]
1 子どもの居場所で忘れられてきた「子どもの貧困」の視点(1970~2000)
2 住民による地域の居場所から公的な居場所や商業ベースの居場所へ(2000~)
3 子どもの貧困対策としてはじまった子どもの居場所
4 今後の課題(地域における子どもソーシャルワークの必要性)
第7章 医療現場で子どもの貧困にどう気づきどう支援するか――医療面からのソーシャルワーク[和田浩]
1 事例
2 医療現場ではなぜ貧困は見えにくいか、どうすれば見えるようになるか
3 困難を抱えた人たちはどんな姿で現れるか
4 子どもの医療費窓口無料化
5 医療者には何ができるか?
第8章 子ども虐待をめぐるソーシャルワーク――地域および社会的養護における支援[川松亮]
1 地域における事例の発見から介入へ
2 児童相談所の子ども虐待ソーシャルワーク
3 児童相談所が抱える課題
4 社会的養護における子どもと家族への支援
5 社会的養護の課題
6 地域ネットワークによる支援
7 市区町村子ども家庭相談の現状と課題
第Ⅲ部 国・自治体における子どもの貧困対策
第9章 自治体における子どもの貧困対策を考える[山野良一]
1 なぜ自治体か
2 どのような施策が必要とされているのか?
3 課題:人的資源の制約
第10章 国民運動としての「子どもの貧困対策」再考[湯澤直美]
1 現代版国民運動と子ども/家族
2 子どもの貧困対策推進法・子供の貧困対策大綱の構成内容
3 子どもの貧困対策の国民運動化
4 政治的対立にみる「子どもへの投資」と子どもの排除
5 反貧困と子どもの主体形成
おわりに[湯澤直美]
前書きなど
「シリーズ・子どもの貧困」刊行にあたって
「子どもの貧困」が社会問題化して、約10年になる。換言すれば、子どもの貧困問題が再発見されて約10年になる。この間、貧困率・子どもの貧困率の公表、法律の制定などに見られるように政策課題として認識されるようになった。また自治体での調査、計画策定などの動きも広がっている。この問題を主題にした多くの書籍が出版され、社会的関心は確実に高まっている。学習支援や子ども食堂など、市民レベルでの取り組みも多く見られるようになり、支援の経験が蓄積され始めている。
一方で貧困の議論が常にそうであるように、子どもの貧困を論じる際にも、問題を個人主義的に理解し個人・親・家族の責任を強化するような言説、あるいは「子どもの貧困」と「貧困」を切り分け、問題を分断、矮小化する言説が見られる。また政策動向もそうした観点から、批判的に検討される必要がある。
子どもの貧困の再発見から10年の現時点で、なされるべきことのひとつは、「議論の枠組み」を提供すべきことだろう。貧困と不利に関わる個々のエピソードの集合として、この問題が語られるべきではない。特に子どもの貧困は、貧困問題の一部であると同時に、その具体的な姿は「子ども」という社会的区分の特徴と関係して現象する。したがって、貧困研究の枠組みを子ども研究の視点から豊富化する必要がある。あるいは、子ども研究に貧困の視点を組み込んでいく必要がある。
こうした観点を意識した研究は、少ない。この「シリーズ・子どもの貧困」は、この10年の議論の蓄積を踏まえて、子どもの貧困を議論する枠組みを提供する試みである。共有されるべき視点を、以下にあげる。
(…中略…)
各巻の主題と位置づけは、以下の通りである。
(…中略…)
第5巻『支える・つながる』では、政策・実践課題としての子どもの貧困に対する対応策の全体像が、ナショナルミニマムの確保とソーシャルワークの展開という観点から示される。子どもの貧困への対応策の議論は、個別的、事後的対応のみに矮小化される危険をもつが、ここでは全体の枠組みを示したうえで、自治体レベルでの対応の可能性を検討する。
全5巻からなる本シリーズは、約60名の執筆者の共同により成り立っている。各巻の編者で構成された編集委員会で議論を重ね、シリーズの趣旨を執筆者間で共有するための覚書を作成した。この「刊行にあたって」は、その再録である。読者と共に、改めて出発点を確認したい。基盤を共有することが、個々の議論や批判をより生産的にすると考えるからである。