目次
はじめに 東アジア共同体シリーズ第2巻 アジアの地域協力――危機をどう乗り切るか
第1章 アジア太平洋の国際関係と中国・北朝鮮――対立をいかに共同に変えるか[世界国際関係学会前副会長・青山学院大学教授・羽場久美子]
第2章 アジアにおける平和構築と東アジア共同体――法の立場から[早稲田大学元総長・西原春夫]
第3章 アジアの経済発展とIМF(国際通貨基金)の役割[IМF(国際通貨基金)元副専務理事・篠原尚之]
第4章 米国の戦略とTTP――日本の採るべき対応[岩手県立大学前学長・谷口誠]
第5章 アジアの経済発展と域内経済統合[東京大学公共政策大学大学院特任教授・河合正弘]
第6章 アジア共同体の創成と課題[一般社団法人ワンアジア財団理事長・佐藤洋治]
第7章 アジア文化交流の歴史と未来[法政大学日本学研究所教授・王敏/文化庁元長官、国立新美術館館長・青木保]
第8章 アメリカの指導力と自由主義的な国際秩序のゆくえ[ハーバード大学ケネディ・スクール特別功労教授・ジョセフ・ナイJr]
第9章 変化する世界システムの中の日本の安全保障政策[国立大学法人政策研究大学院大学学長・田中明彦]
第10章 アジアとインドの関係における戦略的変化[オブザーバー研究財団名誉フェロー・K・V・ケサヴァン]
第11章 論争と史料 中日領土問題についての新見解――釣魚島問題の真相[清華大学当代国際関係研究院副院長・劉江永]
あとがき
講演者紹介
前書きなど
あとがき
本講義は、2014年に開かれた一般財団法人ワンアジア財団の寄付講座、『アジアの地域統合を考える――経済、平和、安全保障、和解』の講義を収録し、2年目、第2巻『アジアの地域協力――危機をどう乗り越えるか』としてまとめた講演集である。
2013年、2014年は、東アジアの安定にとって転機および危機の年であったといえよう。
アジアの地域統合の構想については、2000年に当時の経団連会長奥田碩氏が経済統合の重要性について触れ、2002年に小泉純一郎首相が、シンガポールで、小文字の「東アジアの共同体」について打ち上げ、以後、経済界、学界、政界で「東アジア共同体」に関する関心が急速に広がった。
2008年の民主党政権樹立で鳩山氏が総理大臣として「東アジア共同体」構想を具体的に打ち上げ、クーデンホーフ・カレルギーが目指した友愛精神に基づく地域の統合を推進しようとした。しかしアメリカの軍事的・政治的コントロールに対して明白に「自立」を目指そうとしたこともあり、「東アジア共同体」へのアメリカの警戒がたかまり、また国内でも「東アジア共同体」への認識が大きく変化したように思われる。その後民主党野田佳彦政権が、尖閣を国有化し買い上げたことは中国との修復し難い軋轢を生み、消費税導入と合わせて国民の政権不信を一挙に高め、民主党は総選挙で大敗した。
2014年のアジア地域統合・地域協力の講座はそうした中で始まり、尖閣や竹島、北方領土問題をめぐる対立が続く中での、学術・経済・文化交流を中心とする和解の打開策と、世界とアジアの経済発展をめぐっての分析と議論、話し合いの場となった。
本講義はメディア・リテラシーが極めて高いBBC方式に準じており、対立する双方の意見をできるだけ出しあって深く考えてもらい、判断は個々にゆだねるという形を取っている。今回、学会報告としてのジョセフ・ナイ教授、田中明彦教授の各講演や、劉江永教授「論争と史料」を掲載したのもそのためである。大学の施設の不調から劉教授その他何名かの先生の講義が録音されておらず極めて残念であったが、劉教授は詳細なパワーポイントを作っておられたので、この機会に中国側の史料を開示することにした。日本側の資料に比べて目に触れることがない希少なものであるが故である。
今後ぜひ日本側の資料をつきあわせて議論を続けていただく学術的端緒を提供したつもりである。
(…後略…)