目次
はじめに――移民受入れ国としてのサスティナブルな言語政策転換
第1部 移民に対する言語教育とサスティナビリティ
第1章 自治体の外国人移民政策と言語問題[渡戸一郎]
はじめに
1.外国人移民に対するホスト社会の言語政策
2.日本における自治体の外国人移民政策の展開
3.住民としての外国人移民の変化(1990年代~現在)
4.自治体の外国人移民言語政策の体系化に向けて
5.これからの自治体の外国人移民政策の課題
第2章 社会を支える外国人移住者と受入れ社会とのコミュニケーション構築――多文化社会の持続可能性を支える仕組み[松岡洋子]
1.いつの間にか近くに外国人が
2.ボランティアの日本語学習支援による課題への対応
3.外国における移民とのコミュニケーション構築施策例
4.外国の施策から学ぶこと
まとめ――日本はどうするのか?
第3章 ヨーロッパ市民のための言語文化リテラシーとヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)――英国のEU離脱とサスティナビリティの観点から[宮崎里司]
1.問題の所在
2.移民とEU
3.EU市民とヨーロッパ共通言語参照枠(CEFR)
4.CEFRの今後の課題――サスティナビリティの観点から
結語
第4章 言語政策――オーストラリア多文化主義の中心とその周縁で[ジョセフ・ロ・ビアンコ(吉浦芽里・宮崎里司訳)]
はじめに
1.アプローチ
2.移民のコンテクスト
3.原住民のコンテクスト
4.社会的革新主義者の原点
5.保守的な革新
6.多文化教育のスコープ
7.言語政策
8.多文化主義の検討課題
9.分割された学問分野としてのアジア研究
10.リテラシーとしての英語
11.90年代における言語政策の後退
12.言語と文化に関する計画のディスコース
結論
第2部 多言語教育政策とサスティナビリティ
第5章 オーストラリアの言語教育政策から日本の初等外国語教育を考える――多民族社会ビクトリア州を事例として[奥村真司]
はじめに
1.ビクトリア州の多言語教育政策
2.日本の初等外国語教育への提言
第6章 言語的観点から日本のサスティナビリティを考える――「母語+第一・第二外国語+豊かな人間性」の言語教育[杉野俊子]
はじめに
1.言語サスティナビリティ
2.多言語主義
3.日本の外国語教育
4.英語ができれば「国際人」になれる、という幻想
5.現実に即した言語サスティナビリティ
結論と提言
第7章 日本の多言語社会とコミュニケーション――意識・政策・実態[オストハイダ テーヤ]
1.移民国家日本と言語教育政策の現状
2.「外国語」教育に反映する言語観
3.共通語としての日本語
おわりに
第3部 マイノリティの言語政策とサスティナビリティ
第8章 外国人留学生の受入れとサスティナブル社会の実現――言語政策の視点から[飯野公一]
1.来日留学生の増加傾向
2.留学生数増加政策――「国益」への貢献を前提
3.日本の大学の施策と企業のニーズ
おわりに――留学生の多様性、言語ニーズの多様性の理解へ
第9章 中国の外国語教育政策の動向――「一帯一路」政策を中心に[喬穎・宮崎里司]
はじめに
1.中国における外国語教育の歩み
2.「人的・文化的交流」(人文交流)をねらいとする外国語教育(2014年~現在)
考察と結論
第10章 文化の持続可能性と部族言語――インド・サンタル語の事例を通して[野沢恵美子]
はじめに
1.持続可能性と文化的多様性
2.文化、言語、アイデンティティ
3.インド東部サンタル語の状況
4.サンタル語の言語領域調査
5.言語の使用領域と運用能力
6.オル・チキ教室と言語運動
むすび
第4部 専門分野別言語教育とサスティナビリティ
第11章 変容する社会における専門日本語言語教育とは――ビジネス日本語定義の再考から見える持続可能な専門日本語教育[粟飯原志宣]
はじめに
1.ビジネス日本語の定義
2.専門日本語とビジネス日本語
3.専門日本語と言語政策
まとめ
第12章 中国語圏からの外国人観光客受入れに求められる多言語対応について[藤井久美子]
1.訪日外国人観光客の現状
2.中国語圏からの訪日外国人のための言語サービス
まとめ
第13章 司法手続における言語権と多文化社会[中根育子]
1.司法手続における第二言語・非母語話者の言語権
2.司法手続における言語権保障の実践
3.司法手続における言語権の尊重に向けて
おわりに
索引
前書きなど
はじめに――移民受入れ国としてのサスティナブルな言語政策転換
(…前略…)
本書は、こうした持続可能性と言語政策に焦点を当て、「移民に対する言語教育とサスティナビリティ」「多言語・複言語教育政策とサスティナビリティ」「マイノリティの言語政策とサスティナビリティ」、そして「専門分野別言語教育とサスティナビリティ」という4部から構成されている。
第1部は、渡戸「自治体の外国人移民政策と言語問題」、松岡「社会を支える外国人移住者と受入れ社会とのコミュニケーション構築――多文化社会の持続可能性を支える仕組み」、宮崎「ヨーロッパ市民のための言語文化リテラシーとヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)――英国のEU離脱とサスティナビリティの観点から」、そしてロ・ビアンコ(Lo Bianco)「言語政策――オーストラリアの多文化主義の中心と周縁」の4章から構成されている。渡戸と松岡による、多文化社会、多言語社会化する自治体およびコミュニティによる言語問題のほか、宮崎とロ・ビアンコは、英国のEU離脱に端を発したヨーロッパ市民教育と言語問題や、移民国家オーストラリアが抱える言語政策の課題を記している。
続く、第2部の、「多言語教育政策とサスティナビリティ」では、杉野が母語+第一・第二外国語+豊かな人間性の言語教育」を、そして、奥村が日本の初等外国語教育をオーストラリアの言語教育政策の観点から分析している。また、オストハイダは、今後、多言語社会化する日本のコミュニケーション問題を検証している。
第3部では、持続可能なマイノリティの言語政策に焦点を当てた。野沢は、インド・サンタル語の事例から、文化の持続可能性と部族言語について言及し、飯野は、日本の大学教育においては、マイノリティである外国人留学生をサスティナブルな観点からどのような言語政策を構築すべきかを論じ、喬穎・宮崎は、中国の「一帯一路」の国家戦略と外国語教育政策を紹介し、多様な外国語教育をどのように維持させていくべきかを考察している。
最後の第4部では、専門分野別言語教育とサスティナビリティの関連の中で、ビジネス、観光、そして司法の場面で求められる言語教育ならびに言語政策に触れている。粟飯原は、ビジネス日本語に注目し、専門日本語言語教育の再考を求め、藤井は、中国語圏からの訪日観光客の受入れに際して、どのような多言語対応を整えるべきか、そして、中根は、外国人が関係する司法手続における言語権についてそれぞれ検証している。
(…後略…)