目次
はじめに
テーマ編 変化するドイツ
1 伸縮する地理的範囲とアイデンティティ――「ドイツ」をめぐる求心力と遠心力
2 すぐそこにある森――開墾と馴致の環境史
3 産業とエネルギー――電力業の誕生から「脱原発」へ
4 巡礼に赴く人々――教会と国家、民衆
5 法と秩序――多様性と複層性
6 ドイツ史のなかの人の移動――移民排出国から移民受入国へ
7 ドイツ語の成り立ちと多様性――ドイツ語の成立とドイツ語史の成立
8 ドイツ学校制度の200年――社会における変化の結節点としての学校
[コラム1]ヨーロッパ統合とドイツの学校
9 日独関係の展開――国際システムのなかの二国間関係
第Ⅰ部 多様なドイツ史の基層
10 ドイツ民族成立以前の前史――民族移動からヴェルダン条約まで
11 中世ローマ帝国とドイツ人――「帝国」と「王国」の狭間で
12 神聖ローマ帝国――近代以前のヨーロッパを理解する鍵
13 選挙王制――金印勅書と選「帝」侯
14 いわゆる「東方植民」――新天地を求めて
[コラム2]ハンザ
15 中世の都市――封建社会の一部として
[コラム3]「都市の空気は自由にする」
16 宗教改革――「95か条の論題」から「アウクスブルクの宗教平和」まで
[コラム4]魔女裁判
17 北方ルネサンスの展開――印刷術とアルプレヒト・デューラー
[コラム5]ルドルフのプラハ――ドイツとベーメン
18 三十年戦争――戦争の世紀のハイライト
19 ウェストファリア条約――「帝国の死亡証明書」?
20 ハプスブルクのオーストリア――「神の恩寵による」複合君主政国家
[コラム6]ドイツの城――地域の歴史と建築
21 プロイセンの台頭――プロイセン・ドイツ史の幕開け
第Ⅱ部 ナショナリズムと戦争
22 ウィーン体制とドイツ――ナポレオン支配が遺したもの
23 一八四八年革命――立ち上がる民衆
24 ドイツ産業革命――あるいは加速する工業化
25 ビスマルクのプロイセン――ドイツ帝国創建者が目指したもの、プロイセンにもたらされたもの
26 “大プロイセン”から“小ドイツ”へ――ビスマルクとドイツ統一戦争
27 ヴィルヘルム期のドイツ帝国――大衆化する社会と世界強国への道
28 第一次世界大戦――戦争の炎はどのように広がり、燃えつづけたのか?
29 ヴァイマル共和国――「即興デモクラシー」のゆくえ
30 ヒトラー独裁の成立――ヒトラーは選挙(民意)で首相になったのか?
31 ナチ時代のドイツ――民族共同体・対外政策・第二次世界大戦
[コラム7]過去の克服――負の過去の記憶をどう継承するか
32 ホロコースト――ユダヤ人大量虐殺
第Ⅲ部 冷戦下のドイツ
33 分割占領下のドイツ――「零時」から分断へ
34 基本法の制定と西ドイツの成立――「ボンはヴァイマルではない」
35 東ドイツの苦悩――理想の実現に向けた格闘
36 再軍備と経済統合――西側世界における主権回復
37 ベルリンの壁――東西分断の固定化
38 エリゼ条約(独仏協力条約)と1960年代の展開――欧州統合と独仏関係
39 68年運動――戦後第一世代による抗議
40 ブラントと東方政策――「接近による変化」と緊張緩和の促進
[コラム8]ドイツの秋――テロリズムのピーク
41 ホーネッカーの東ドイツ――「現に存在する社会主義」の夢と現実
42 緑の党と社会変容――運動政党としての発展
[コラム9]食の歴史――歴史的多様性の象徴
43 コール政権――1980年代の保守中道政権の政策展開
第Ⅳ部 統一後のドイツ
44 ドイツ統一――民主的選択と国際的合意形成
45 EUとドイツ――冷戦後秩序とヨーロッパ統合の進展
[コラム10]ワールドカップとドイツ現代史――スポーツと社会の変化
46 コール政権と改革の停滞――統一の重荷と合意政治の後退
47 シュレーダー政権と刷新――赤緑政権の7年
[コラム11]オスタルギーとは何か?
48 ハルツ改革――ドイツ福祉国家の転換点
49 ユーロ危機とドイツ――中途半端な「覇権国」
[コラム12]ユーロ危機――経済統合と国家なき通貨
50 メルケル政権――政策の継続性と変化
参考文献
ドイツの歴史を学ぶためのブックガイド
ドイツの歴史を知るための50章関連年表
前書きなど
はじめに
ドイツを見ると世界が見えるというは誇張がすぎるかもしれないが、ドイツ史を振り返ってみると、世界の変化を象徴しているような事例に事欠かないことがわかる。本書はドイツ史をできる限りコンパクトにわかりやすく解説することをめざしているが、読んでみるとドイツにとどまらない世界の変化がよくわかると感じられるだろう。その最大の理由は、ドイツがヨーロッパの地理的な中心部に位置し、政治、経済、社会、文化といったあらゆる点で、周辺国のみならずヨーロッパ全体、ひいては世界史と関係し、大きな影響を与えてきたからである。それは戦争のように悲惨な関係であったことも多いが、貿易のような経済関係のこともあれば、移民や留学など人の行き来であったこともある。ドイツを見れば世界が見えるというのはヨーロッパ中心的すぎて問題を孕んでいることは認識しているつもりではあるが、中世から近代を経て現代に至る世界のさまざまな構造にはヨーロッパ的なものが埋め込まれているので、ドイツ史を理解することは世界史理解のよい出発点となるであろう。
(…後略…)