目次
序章 経験資本とは何か(国立教育政策研究所:岩崎久美子)
第1節 本書で経験を資本として捉える理由
第2節 資本とは何か
第3節 教育、文化、経験に関する資本
第4節 人生における経験の意味
第5節 本書で扱う経験の種類
―――第Ⅰ部 経験資本の実態―――
第1章 調査の枠組みと大学生の現状(前・ベネッセ教育総合研究所:柳澤文敬/べネッセ教育総合研究所:堀一輝)
第1節 調査の方法
第2節 調査項目
第3節 認知的スキルの概要
第4節 調査対象者の属性
第5節 大学生の生活の現状
第6節 大学生の認知的スキル
第7節 まとめ
第2章 小中高および大学の学習経験(前・ベネッセ教育総合研究所:柳澤文敬)
第1節 探究的な学習と基礎になる事項
第2節 探究的な学びの方法論の学習経験
第3節 探究的な学びの実践経験
第4節 方法論の学習とその実践のギャップ
第5節 認知的スキルのスコア、学習成熟度、生活満足度との関係
第6節 まとめ
第3章 学習のしかたに関する経験(べネッセ教育総合研究所:伊藤素江)
第1節 はじめに
第2節 大学生が持つ学習に関する経験資本
第3節 学習方略による学生類型
第4節 学習方略と家庭環境
第5節 過去の学習方略と現在の学習行動および学習成熟度
第6節 まとめ
第4章 教課外の経験(べネッセ教育総合研究所:村田維沙)
第1節 はじめに
第2節 小学校から高校の頃の経験
第3節 大学における経験
第4節 子どもの頃の経験と現在の経験、能力との関係
第5節 まとめ
第5章 読書経験(べネッセ教育総合研究所:堀一輝)
第1節 はじめに
第2節 大学生の読書状況と認知的スキル
第3節 まとめ
第6章 困難や挫折の経験(国立教育政策研究所:岩崎久美子)
第1節 困難や挫折の経験数
第2節 困難や挫折の経験と進学大学偏差値
第3節 現在の満足度や相談相手との関係
第4節 困難や挫折の経験の種類と解決法
第5節 まとめ
―――第Ⅱ部 経験資本と現在―――
第7章 大学生の学習成熟度(べネッセ教育総合研究所:伊藤素江)
第1節 はじめに
第2節 経験資本との関係
第3節 学習成熟度と認知的スキル
第4節 大学生の学習成熟度
第5節 在学中の学習成熟度の低下を防ぐ手掛かり
第6節 まとめ
第8章 大学生の時間の過ごし方(国立教育政策研究所:岩崎久美子)
第1節 大学生の一週間の「予復習・課題」「自主的学習」「アルバイト」の時間数
第2節 「予復習・課題」に費やす時間数
第3節 「自主的学習」に費やす時間数
第4節 「アルバイト」に費やす時間数
第5節 夏休みはどのように過ごしているか
第6節 資格をどのぐらい取得しているか
第7節 まとめ
第9章 大学生の人間関係(労働政策研究・研修機構:下村英雄)
第1節 大学生の人間関係を検討する意義
第2節 大学生の人間関係の概要
第3節 経験資本との関連
第4節 本章のまとめ――経験資本と人間関係
第10章 諸経験のつながりとその作用(べネッセ教育総合研究所:堀一輝)
第1節 はじめに
第2節 分析方法
第3節 分析結果
第4節 まとめ
終章 経験資本の含意~その後の人生やキャリアとの関わり~(労働政策研究・研修機構:下村英雄)
第1節 経験資本とキャリアの視点
第2節 各章の結果にみる経験資本とキャリアの結びつき
第3節 経験資本とキャリア支援・キャリア教育の関わり
付録A 調査項目
付録B 調査データの集計結果
前書きなど
はじめに
人は年齢を経るにつれて経験という言葉に引き寄せられる。経験は、その人自身が生きていく間に必然、偶然を問わず遭遇した事象であり、経験してきたことの積み重ねが人生そのものを形作るといっても過言ではない。
本書では、人それぞれの経験の種類や量が人生に与える影響を、「経験資本」という言葉で象徴し、経験の持つ学習への影響を取り上げる。「経験資本」と名付けるのは、経験は企業などの人材育成にとどまらず、人生全体を包含し形作る長期的な概念であることによる。たとえ望ましくない経験であっても、本人の意味づけによっては、その経験は、新たな状況に直面した折に人生の知恵として、人生の展開に有効に働くと思われる。「経験資本」という言葉を用いることで、経験そのものを振り返り、意味づけし、そこから学習したものを活用し、さらにはそれを人生戦略のために蓄積する有効性に目を向けることができるであろう。
あらためて、この場合用いる経験という言葉を問えば、次の3つが思い浮かぶ。
第一に、「経験」は、身体に染みこんだ知識である。
「学問なき経験は、経験なき学問に勝る」(イギリスのことわざ)というように、身体を通じた学習は、その人が独自に体験した深い思考を伴う固有の知識であり、知恵をもたらす潜在性を有するものである。
第二に、「経験」は、大人の学習の資源である。
「経験学習」を提唱したコルブ(Kolb, D.A.)は、経験学習について、具体的経験、経験の振り返り、新たな概念形成・理解、新しい状況への知識の応用といった四段階からなるモデルを提示する。そこでの学習とは、単に学習そのものではなく、経験を振り返り、経験の意味づけをすることが学習の本質と考える。経験は、潜在的な教育機能を有し、成人の学習の基盤をなす主な学習資源なのである。
第三に、「経験」は、人生を規定するものである。
どのような「経験」をしたか、その差異がそれぞれの異なる人生の方向性をもたらす。人は、「経験」に基づき、新たな学習を行い、自分を成長させる。
本書では、このような経験という言葉に焦点をあて、生涯学習政策研究を担う国立教育政策研究所、キャリアガイダンスや就労支援に関する種々の研究を行う労働政策研究・研修機構、そして、様々な教育データを集積し、テスト開発を行うベネッセ教育総合研究所の三者の共同研究の成果をまとめたものである。
(…後略…)