目次
序章 文化接触の場としてのダイナミズム
第1章 「場」としての家庭と異文化間教育研究
はじめに
1.「場」としての家庭を軸とした問題提起
1.1 与えられた課題
1.2 対象横断的な「場」としての家庭
2.乳幼児期と異文化間教育
2.1 保育の国際化
2.2 乳幼児の異文化間教育研究の学問的偏り
3.異文化間教育的「場」の増加
3.1 社会の多文化化による「場」の増加
3.2 概念枠組みによる射程の増加
4.学会誌から見た乳幼児期の異文化間教育研究
5.異文化間教育における「国」
5.1 「場」としての家庭――国際比較研究
5.2 「透けて」見える家庭の「場」
6.開かれた乳幼児の異文化間教育研究
6.1 特定領域化からの脱却
6.2 外に開かれた異文化間教育研究
結びにかえて
第2章 小学校と文化接触――文化接触の場としての教室の変革
1.文化接触の場としての教室
1.1 日本の小学校と教室に現れた国際化の波
1.2 海外・帰国児童生徒の問題と日本の教室
2.教室自体の問い直し
2.1 異文化間的視点からの問い直しへ
2.2 外国人児童生徒の増加と教室の問い直し
3.多文化共生の学校文化づくりとしての教室
3.1 多文化共生の学校づくりへの方向性
3.2 多文化共生の学校文化づくりへの実践と戦略
4.越境する子どもたちの居場所と大陸を越えた学び合い
4.1 越境する子どもたちと「居場所」
4.2 大陸を越えた学び合いと居場所――これからの異文化間的視点からの実践として
第3章 中学校・高校と文化接触
1.〈場〉を形成する教師のまなざし
1.1 教師の解釈・実践が生みだす生徒の〈現実〉
1.2 〈指導〉による権力関係の維持
2.〈場〉を生きる生徒
2.1 学校における生徒のサバイバル
2.2 学校適応の分化現象
2.3 進路志向と〈場〉の意味づけ
3.〈場〉の変化に向き合う教師
3.1 生徒の多様化に対応を迫られる現場
3.2 〈文化〉と〈権力〉の問い直し
3.3 対立・葛藤を経た「公正さ」の深まりと教師の発達
4.まとめと課題
第4章 外国人学校等
1.ブラジル人学校と文化接触
1.1 本節の目的
1.2 ブラジル人学校に関する研究動向
1.3 新たな研究視点の導入
1.4 異文化間教育学としてのブラジル人学校研究
2.朝鮮人学校・中華学校と文化接触
2.1 本節の課題と構成
2.2 『異文化間教育』における研究の不在とその背景
2.3 関連学会等の先行研究――その空間に何を求め見出したのか
2.4 朝鮮学校・中華学校へのまなざしのこれまでとこれから
第5章 大学・日本語学校と文化接触
1.時系列から見た大学および日本語学校を取り巻く状況の変化
2.場の特徴
2.1 大学という場と留学生
2.2 日本語学校という場と日本語学校生(就学生)
3.個と場の影響関係から見た研究内容の分類
3.1 場が個または集団に影響を与える視点
3.2 場が個と個の異文化接触、または集団間の異文化接触に影響を与える視点
3.3 個と個の異文化接触、または、集団間の異文化接触が場に影響を与える視点
3.4 個または集団が場に影響を与える視点
4.考察と展望
第6章 職場と文化接触
1.異文化間教育において職場やキャリアという課題を扱う意義
2.これまでの研究の概観
2.1 留学生の就職活動についての研究
2.2 外国人社員に関する研究
2.3 海外派遣から帰任した日本人社員に関する研究
2.4 外国人企業研修生、外国人研修生・技能実習生らに関する研究
2.5 外国人大学教員に関する研究
3.今後の課題と展望
第7章 地域社会と文化接触
1.地域における外国人を取りまく状況
2.「ネットワーキング」という観点からの検討
2.1 ネットワーキングの動的な把握
2.2 キーパースン、メディエータの役割
2.3 地域ネットワーキングにおける「学習」について
3.「連携」という観点からの検討
3.1 「関係の再構築」としての連携
3.2 「連携」の研究への課題
4.「当事者性」という観点からの検討
4.1 当事者性と構築性
4.2 「多文化共生という言葉がマイノリティから発した言葉ではない」ことへの注目
4.3 当事者性についての研究
5.「場」そのものを動的にとらえるという観点からの検討
5.1 「居場所づくり」の実践
5.2 動的な場のとらえ方――「流れ(フロー)」と「渦」
5.3 時間軸との関わりでの「場」のとらえ方
6.課題
第8章 社会教育関係機関と文化接触
1.社会教育の歴史的理解と異文化間教育
1.1 日本の社会教育の歴史的理解
1.2 戦後日本の社会教育の変遷
1.3 日本における社会教育に関わる問題の措定
2.社会的包摂・統合のための支援としての異文化間教育と社会教育
2.1 社会教育における異文化間教育へのアプローチ
2.2 異文化間教育における社会的包摂・統合支援の観点――「自立」を中心に
3.場のあり方――当事者の権利の拡充や参画の取り組み
3.1 学習権の保障の観点
3.2 社会教育関係施設などでの実践から
4.支援者・専門職性との関連――コンピテンシーとしての異文化間能力
4.1 支援のあり方、専門性について
4.2 支援の実践の中での議論
5.まとめ――人権としての社会教育・異文化間教育
第9章 海外の場と文化接触
1.海外の場と異文化間教育
2.海外の場を対象とする研究論文の抽出と分析枠組み
2.1 研究論文の抽出
2.2 分析の枠組み
3.海外の場を対象とした異文化間教育研究の全体的な傾向
3.1 理論的研究と実践的研究
3.2 異文化間教育の個人・集団・構造レベルと対象領域
4.場の視点からみる海外の異文化間教育研究
4.1 海外の教育制度・政策・実践という場
4.2 海外の文化接触としての場
5.考察
5.1 海外の場における異文化間教育研究の成果
5.2 海外の場における異文化間教育研究の課題
6.まとめと今後の展望
終章 文化接触の場としてのダイナミズム
参考文献
索引
あとがき
執筆者紹介
前書きなど
「異文化間教育学大系」の刊行にあたり
異文化間教育学会は1981年に設立された。学会設立の趣旨には、「異質な文化の接触によって生ずるさまざまな教育の問題を学問対象として取り上げ、その研究を促進しようとするところにあります」と記されている。学会が設立され35年が経過し、本学会では多くの研究成果を蓄積してきた。学会の研究成果を世に問うてきたのが学会誌である『異文化間教育』であり、2015年5月時点で43号を数えるまでになった。その特集テーマをみると、研究主題は多様化し、研究対象も拡大してきた。研究領域としては、コミュニケーション、日本語教育、バイリンガル教育、アイデンティティ、差別・偏見、カウンセリングなどが取り上げられてきた。さらに、多文化教育、小学校の英語教育、総合学習、多文化共生の教育、キャリアといった教育の現代的課題なども取り上げられている。研究対象や主題は多様化しているが、学会設立時の趣旨にあるように、文化間移動をキーワードにして人間形成や発達を文化間や他者との相互作用を通して把握していくという共通の課題意識がその基底にあったといえる。
(…中略…)
本企画の目的は、第1に異文化間教育学会としてこれまでの研究成果を整理分析することで、研究成果の現段階での一定の到達点を示すこと、第2にその検討作業を通して異文化間教育学研究の今後の視点や方向性を示すこと、そして第3に全体を通して異文化間教育学の大系化を図ることである。こうした異文化間教育学の大系化は、これから異文化間教育学の研究・教育を目指す人たちの重要な指針になることはいうまでもないが、多文化化する社会にあってこれまでの本学会の成果を新たな社会づくりに活かすことも可能にすると思われる。
本企画は全4巻からなる。第1巻『異文化間に学ぶ「ひと」の教育』では、「海外子女」「帰国児童生徒」「留学生」「外国人児童生徒」など異文化間教育学が対象としてきた「ひと」とその教育に焦点をあてた。第2巻『文化接触における場としてのダイナミズム』では、家族、小・中・高等学校、大学、外国人学校、地域など異文化間教育が展開する場に焦点をあてた。第3巻『異文化間教育のとらえ直し』では、アイデンティティ、差別・偏見、多文化共生、カウンセリング、言語習得、バイリンガル、異文化間コミュニケーションなど異文化間教育学会が主要な研究主題にしてきたものを取り上げた。そして、第4巻『異文化間教育のフロンティア』では、異文化間教育学の大系化や学的な自立の試み、異文化間教育学の方法論や新しい研究の試みなどを取り上げた。各巻のねらいや構成については、それぞれの巻の序章に詳しく述べられている。
各巻とも最後に参考文献と索引を掲載した。この異文化間教育学大系は、会員はもとより異文化間教育に関心を持つ一般読者や学生などを対象にしている。全4巻の各章・節を理解するための背景知識や基礎的知識を得たり、さらに各巻を読み進め学習を深めたりする上で必要となる文献を巻末に参考文献として掲載した。また、索引についてはキーワードを中心にした。全4巻の各章・節の重要なキーワードを容易に探し出せるように抽出したものである。参考文献、索引ともぜひ、活用していただきたい。
この全4巻を通して、異文化間教育学の大系化を図ることを目指し、タイトルも異文化間教育学大系とした。このシリーズが学会員だけでなく、幅広く多くの方に読んでいただくことで、異文化間教育学が広く浸透し、新たな研究、実践につながることを期待したい。
(…後略…)