目次
新版に寄せて
まえがき
はじめに――「ろう文化」への招待
第1章 ろうであることの発見
第2章 ろうのイメージ
第3章 異なる中心
第4章 聴者の世界で生きる
第5章 手話への新しい理解
第6章 音のもつ意味
第7章 歴史的創造物としてのろうの生活文化
訳者あとがき
訳者あとがき――新版にあたって
参考文献
前書きなど
新版に寄せて
私たちが『「ろう文化」案内』を書きはじめたとき、これほどろうコミュニティから関心が寄せられるとは思ってもみませんでした。実際、世界中の手話やろう者のコミュニティでそこまで広く関心が拡がっていなかった時期があったことを忘れそうなほどです。『「ろう文化」案内』のおかげで、私たちは言語と文化の問題についてろうや聴の同僚たちと深く議論を交わすようになり、このことは、専門家として、また個人としての私たちの人生に大きな影響がありました。この議論から、私たちはろう文化を説明するさらにわかりやすい本を書かざるをえなくなりました。『「ろう文化」案内』を書くことも大変なことでしたが、同書が書き上がった後もいまだに答えが見つかっていない多くの疑問について説明するということもそれと同じくらい大変なことでした。
同書で、私たちが目的としたのは、コミュニケーションの面で第一言語が音声言語でなく手話であるというコミュニティにおける、文化とは何かということについて、探究することでした。手話を使う人たちの言語と文化を研究するということは、独特の方法で文化的な知識や実践について考えなくてはならないということなのです。カルチュラル・スタディーズという領域が示しているように、人間が自分自身についてのイメージを社会的かつ文化的にどの程度、構築しているのかということを描き出すため、ろう者の身体とろうのコミュニティも考慮に入れられなければなりません。
(…中略…)
『「ろう文化」案内』の日本語訳が出版されて以後、私たちがどうしているか知りたいと思っておられるのではないでしょうか。私たちの人生も面白い方向に道をたどっています。キャロルには、マッカーサー賞という、アメリカの学者にとって最高の賞を受ける名誉が与えられました。彼女は今、カリフォルニア大学サンディエゴ校社会科学学部の学部長を務めています。その学部で、彼女は一万人余りの学生を抱える一〇の学科と学際的プログラムを監督しています。トムは、同大学の教育学研究科の副学科長であり、教育の社会的変遷領域での業績で、アメリカ教育学会から表彰されるという栄誉を受けました。
私たちの本『「ろう文化」案内』は、世界中で出ているほかの著作物とともに、まさにろう者自身のものであるろうコミュニティを超えて、ろう者の業績への認識や正当な評価を生み出しました。機会さえ与えられれば、ろう者は実に有意義なかたちでろう以外の人たちの人生にも貢献するでしょう。いつものことながら、この『「ろう文化」案内』の新版によって、どこであってもろう者への偏見が取り除かれ、ろう者の前に道が切り拓かれることが続くことを願っています。