目次
はじめに
第一部 放置される自主避難者問題
第1章 放置できない自主避難者問題[戸田典樹]
1 「子ども被災者支援法」基本方針策定(2013)における「避難の権利」の曖昧化
2 「子ども被災者支援法」基本方針の見直し(2015)による「避難の権利」の形骸化
3 「避難の権利」の曖昧化・形骸化による自主避難者の苦悩
4 被災者すべての権利・生活を保障するために
第2章 大規模調査からみる自主避難者の特徴――「過剰な不安」ではなく「正当な心配」である[辻内琢也]
1 はじめに
2 NHK/WIMAアンケート調査の概要
3 自主避難者にみられる高いストレス度とその要因
4 自主避難者のおかれている心理・社会・経済的状況
5 自由記述の分析から読み取れる自主避難者の特徴
6 安心神話と価値観の対立の根拠
7 放射線に関するアンケート調査結果
8 新たな自主避難者の急増と今後の展望
9 結論
第3章 自主避難者の今 何が困難を引き起こしているか――アンケート調査よりの分析[伊藤泰三・河村能夫]
1 調査の概要
2 集計結果の概要
3 統計解析から見える自主避難者の特徴について
4 他調査から見える避難生活の特徴
第4章 漂流する母子避難者の課題[田中聡子]
1 限定された支援の現状
2 先行研究から見る母子避難の現状と課題
3 避難を続けることによって生まれる新たな問題
4 母子避難者問題の解決に向けて
第5章 子どもの安全、安心な未来のため親としてできること[田中聡子]
1 避難生活を続ける母親
2 父親として子どもを守りたい
3 帰還者からみる子どもの安全、安心
COLUMN
子どもの未来、家族の幸せを願って[渡部朋宏]
知ってほしい、考えてほしい福島の現実[渡辺成子]
第二部 自主避難者問題の構造を考える
第6章 限定される自主避難者の損害賠償[渡部朋宏]
はじめに
1 日本における原子力損害賠償制度の概要
2 自主避難者に対する損害賠償の指針
3 自主避難者に対する損害賠償の状況と課題
第7章 自主避難者への社会的支援[大友信勝]
はじめに
1 原発事故と避難
2 自主避難の構造
3 被害者支援政策の裏切りと迷走
4 チェルノブイリ原発事故の教訓
結びにかえて
おわりに
編者・執筆者紹介
前書きなど
おわりに(戸田典樹)
(…前略…)
このように第一部「放置される自主避難者問題」では、子ども被災者支援法によって得られた「避難の権利」が基本方針の策定において曖昧化・形骸化されていく過程状況を説明した。そのうえで、「避難の権利」の形骸化が自主避難者に多くの苦悩を生じさせていることを、アンケート、インタビュー、手記などの方法であきらかにした。そして、第二部「自主避難者問題の構造を考える」では、自主避難者に対して避難生活の実態を踏まえた最低限の生活を保障することの必要性を訴えている。さらに、チェルノブイリ原発事故の経験に学び、自主避難者など当事者を中心とした原発事故処理対策が必要であることを訴えた。
このような状況であるにもかかわらず、自主避難者の問題は、マスコミにも取り扱われることも少なく、原発事故がすでに過去の出来事として処理されようとしている感がある。その典型が、2017年3月末で応急仮設住宅の無償提供の打ち切りと、居住制限区域と避難指示解除準備区域についての避難指示解除である。現在の原発事故処理の課題は、補償や支援により分断されている自主避難者、強制避難者、避難せず生活している人の困難を共同・連帯して、個人の責任に押しつけるのではなく、社会が責任を担うような仕組みへと転換することである。本書の冒頭において、自主避難者を「遭難した船から希望の光を追い求めて大海に漂流する家族」にたとえた。本書が原発事故に人生を大きく変えられた自主避難者に自らが望む方向へと生活再建ができるように希望の光を照らす一助となれば幸いである。このためにも、まずは、応急仮設住宅の無償提供の打ち切りを見直すこと。そして、子ども被災者支援法が定めた「居住」、「移動」(避難)、「帰還」の権利を改めて保障する社会的支援策の具体化が必要である
(…後略…)