目次
まえがき
Ⅰ 地理・歴史
第1章 極北の人類史――酷寒の世界を生きぬいた人びと
第2章 呼称について――北方先住民族の名乗りと名付け
第3章 急速に変化しつつある極北の自然――北極海の氷が消える!?
第4章 北極探検ヒーローの時代――フランクリン船長の行方
第5章 グリーンランドの歴史① 4600年の今昔ものがたり――最北のフロンティアに挑んだ人びと
第6章 グリーンランドの歴史② 伝統的な生活――極北で育まれた生活の知恵と技術
第7章 グリーンランドの歴史③ 現代の漁業、農業、植林――新しい時代を切り開くグリーンランド
第8章 グリーンランドの都市――ヌークとカナック
【コラム1】世界遺産① イルリサット・アイスフィヨルド
第9章 アイスランドの自然景観――火山と氷河によって作られた地形景観
【コラム2】世界遺産② スルツェイ島――炎の巨人と海鳥のすみか
第10章 アイスランドの歴史① 農民たちの共和国?――植民から13世紀半ばまで
【コラム3】世界遺産③ シングヴェトリル国立公園
第11章 アイスランドの歴史② ノルウェー=デンマーク王のかげで――13世紀半ばから16世紀半ばまで
【コラム4】「一角獣の角」と極北の海
第12章 アイスランドの歴史③ 世界とつながる孤島――16世紀半ばから第二次世界大戦終結まで
第13章 アイスランドの都市――レイキャヴィークとアークレイリ
Ⅱ 政治・経済・社会
第14章 北極評議会――北極をめぐる「意思の具体化」の場
第15章 イヌイット環極北会議――北方先住民の権利と利益を守るために
第16章 アイスランドの政治・政党――周辺的小国の中の先進性
第17章 グリーンランドの政治・政党――自治のゆくえ
第18章 気候変動とグリーンランドの産業――資源をめぐる動向
第19章 人々の生活を貧困から守るための仕組み――アイスランドの住民と働く人への給付
【コラム5】アイスランド人のDNA――医療・倫理・人文学
第20章 アイスランドの教育制度――人それぞれの学生生活
【コラム6】アイスランド語を学ぶ、ということ
第21章 変革と発展のために――グリーンランドの教育と社会
第22章 EUとアイスランド――非加盟を貫くという選択
第23章 EUとグリーンランド――加盟、域外化を経て構築される新しい関係
第24章 国際捕鯨委員会と先住民生存捕鯨――制度と現実の相反
第25章 シリウス・パトロール――グリーンランド沿岸犬ぞり警備隊の70年
第26章 米軍再編と北極圏の安全保障――チューレとケプラヴィークに見る基地政策
第27章 「氷解」のフロンティアをめぐる争奪と協調――北極問題の法的諸相
Ⅲ 生活・文化
第28章 アイスランドの移民事情――言語とアイデンティティをめぐる葛藤
第29章 アイスランド国民教会――伝統の担い手の新時代への対応
第30章 男女平等の理想郷?――アイスランドのジェンダー関係と同性婚
第31章 生活の中のメディア――アイスランドとグリーンランド
第32章 アイスランドの宗教・行事・伝統――新しい文化との出合い
第33章 ヴァイキング時代への中世主義――中世趣味と中世研究の葛藤
第34章 グリーンランドの宗教・行事・伝統――グリーンランド・イヌイトの世界観の変遷
第35章 グリーンランドとアイスランドの捕鯨――生業捕鯨と商業捕鯨
第36章 羊一頭あまさず食べる――アイスランドの伝統的食文化
第37章 アイスランドとグリーンランドの現代芸術――音楽・映画・文学
第38章 精霊、映画、複数の現実――フリドリク・トール・フリドリクソンの映画
第39章 音楽の錬金術師、氷の国のうたびとビョーク――矛盾の万能人
第40章 イントゥ・アナザー・ワールド――アイスランドの音楽シーンを盛り上げる20代のアーティストたち
【コラム7】グリーンランドの音楽
第41章 グリーンランドのサッカー――人々を熱狂させるスポーツ
【コラム8】ヴァイキングの格闘技グリマ
第42章 人生をあきらめない!――切断者の夢をかなえるアイスランド企業Ossur
Ⅳ 言語・文学
第43章 アイスランド語の歩み――苦難の歴史を支えた言語文化の伝統と擁護
第44章 アイスランド語はどんな点でユニークか――伝統と変革の間
【コラム9】フェーロー語について――「羊の島」の言語の歩み
第45章 グリーンランド語(東エスキモー語)――もっとも活力あるエスキモー語
第46章 ことばが出会う場所――極北の島までデンマーク語を追いかけて
第47章 エッダとスカルド――アイスランドに残された詩篇
第48章 アイスランド人のサガ――「伝承の海」に浮かぶ物語
【コラム10】写本の作り方
第49章 スノッリと『ヘイムスクリングラ』――ノルウェー王に魅せられたアイスランド文人
【コラム11】写本収集家アウルトニ・マグヌソン――写本というアイデンティティ
第50章 『ニーベルンゲンの歌』におけるアイスランド――現実と神話の狭間の秘境
第51章 「外国語」でつづる故郷――アイスランド、フェーロー諸島、グリーンランドの近現代文学
第52章 地図で旅する ポニーと歩く――ジュール・ヴェルヌとウィリアム・モリスのアイスランド
第53章 「私は退路を断つ。そうすれば前に進むしかない」――フリチョフ・ナンセンの北極&グリーンランド探検記
第54章 トールキンのファンタジーとアイスランド語――ファンタジーの源泉としての中世北欧文献
第55章 アイスランドのノーベル賞作家――ハルドウル・ラクスネス
第56章 アイスランドの推理小説作家――アーナルデュル・インドリダソンを中心に
Ⅸ 日本と極北
第57章 日本におけるグリーンランド展示――北海道立北方民族博物館と国立民族学博物館
第58章 ヨーロッパ近代の根源と周縁――荒正人と山室静のアイスランド
第59章 日本アイスランド学会――研究者の結集と活動
【コラム12】アイスランドを越えて、世界の果ての、その果てへ――本当の冒険者トルフィン・トールズスソン
第60章 俳句、黒澤、村上春樹――現代アイスランドの日本文化受容
第61章 極北の日本語教室――アイスランド大学の学生たち
第62章 世界冬の都市市長会議――積雪寒冷地におけるまちづくり
第63章 ロイヤルグリーンランド社と対日貿易――水産物を日本へ
第64章 地球温暖化とグリーンランド氷床――日本におけるグリーンランド氷床観測
第65章 植村直己さんの生き方に学ぶ――迷わず進め正直の道
あとがき
参考文献
前書きなど
まえがき
(…前略…)
本書の構成
65章の項目は5つのセクションで構成されている。第Ⅰ部「地理・歴史」、第Ⅱ部「政治・経済・社会」、第Ⅲ部「生活・文化」、第Ⅳ部「言語・文学」、第Ⅴ部「日本と極北」である。補足的な要素はコラム扱いとし、可能な限り地域間の偏りがないように収録項目の選定には配慮した。それぞれのセクションの読みどころは、編者のひとり中丸により、各セクションの冒頭で簡潔に紹介されるだろう。
さしあたり、本書もまた、ヨーロッパに属する地域を対象とした巻である。ヨーロッパといえば、中国やアメリカと並び、日本で研究者や好事家が多い地域である。本シリーズを見ても、ドイツやフランスなど、「現代」だけで一書をなすだけの厚みをもつ。アイスランドやグリーンランドが属する北欧も、近年、徐々にではあるが、専門家が増えつつある。短期滞在の観光客数や貿易上の取引額が増加するとともに、メディアでの認知も深まり、学生として留学し、専門家として大学などで教鞭をとる研究者も見られるようになった。その結果としてすでにデンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーは本シリーズの一冊として収められた。
しかし、アイスランド・グリーンランド・北極という北大西洋世界となると、話は違う。現段階の日本で、現地の言葉であるアイスランド語やグリーンランド語を学び、日本語で現地情報を入手することは容易ではない。たしかにインターネットが世界中の情報インフラとして機能する現在、英語ができればある程度の知識を得ることはできるだろう。しかしインターネットの情報は、わたしたちの国である日本についてもそうであるように、それのみを情報源としたところで、現地生活の一瞬にまで飛びこむことは難しい。しかしこの「エリア・スタディーズ」というシリーズで必要とされるのは、現地の情報を、可能な限り学問的なベースで解説し、外国人である日本語読者に適切に理解できるように提示することである。
正直に申し上げたい。本書の執筆者の選定と依頼は大変苦労した。なにしろ本書で取り上げる地域の専門家が我が国にはほとんどいないのである(これは日本だけの事情ではないだろうが)。そのため、編者は、現地に住んでいる友人や知人、場合によっては非日本語話者にも原稿を依頼した。これは現地生活者の視線をダイレクトに伝えるという意味で、本書の強みでもある。さらに言えば執筆者の職種も多様である。狭い意味での研究者のみならず、牧師、会社員、ライター、そして探検家や漫画家などなど。こうした対象地域に対するアプローチの多様性もまた本書の強みでもある。
各部はおおよそアイスランド、グリーンランド、北極の順に項目を配置している。ただし地理と歴史を扱う第Ⅰ部のみは、時系列を重視し、時代幅の大きい北極、グリーンランド、アイスランドの項目順としている。各章は独立した記述であり、順不同に読んでももちろん意味はある。一方、それぞれの章末には、その章の扱う内容と関連する章の相互リファレンスをつけている。そのリファレンスを活用し、そして全体を読み通すことによって、それぞれの章に対するより深い理解が生まれると考えている。
(…後略…)