目次
「移民・ディアスポラ研究」4の刊行にあたって[駒井洋]
序章 グローバル化の最前線が問いかける射程[五十嵐泰正]
Ⅰ 人材獲得をめぐる各国の現況と政策展開
第1章 アメリカの高度人材に対する移民政策の変遷と現在の動向[手塚沙織]
第2章 シンガポールの人材獲得政策――都市国家の成長戦略とジレンマ[明石純一・鐘春柳]
第3章 韓国におけるグローバル人材の現況と政策展開[佐藤由利子]
第4章 日本のグローバル人材の受入れの現況と政策展開[松下奈美子]
第5章 国境を越える人材―その誘致をめぐる葛藤[明石純一]
Ⅱ 「グローバル人材」雇用と移動の現場から
第6章 〈討議〉海外就職の可能性[大石哲之×森山たつを]
第7章 大連の日本向けアウトソーシングと日本人現地採用者[川嶋久美子]
第8章 日本企業における「ダイバーシティ改革」と外国人雇用について[小平達也]
Ⅲ 「グローバル人材」をめぐる諸論点
第9章 BRICs諸国からの高学歴移民の空間的可動性[駒井洋]
第10章 グローバルシティ東京と「特区」構想――「国家戦略特区」の隠れた射程を考える[町村敬志]
第11章 グローバル人材の育成をめぐる企業と大学とのギャップ――伝統への固執か、グローバル化への適応過程か[吉田文]
第12章 グローバル・マルチカルチュラル・ミドルクラスと分断されるシティズンシップ[塩原良和]
書評
賽漢卓娜著『国際移動時代の国際結婚―日本の農村に嫁いだ中国人女性』/鹿毛理恵著『国際労働移動の経済的便益と社会的費用――スリランカの出稼ぎ女性家事労働者の実態調査』[駒井洋]
編者後記[明石純一]
前書きなど
「移民・ディアスポラ研究」4の刊行にあたって
(…前略…)
シリーズ第4号のタイトルは、『「グローバル人材」をめぐる政策と現実』とすることとした。これまで、日本ではブルーカラーやサービス業などの非熟練労働に従事する外国人労働者についてはある程度研究が蓄積されてきた。それにたいし、ホワイトカラーや専門・管理・技術職などの社会的地位の高い人びとの国際移動については、比較的関心が低かったようにおもわれる。その結果、このような人材の国際移動の実態や各国の政策についての研究は、いちじるしく立ち遅れているといわざるをえない。
このところ、いわゆる「高度人材」を日本に呼びよせなければならないとする声がにわかに高まってきた。ところが、このような人材の国際移動は、グローバルな新自由主義的経済秩序をさらに強化するのか、それともそれに対抗するような新しい条件がうみだされるのか、また移動先社会や送り出し社会には、どのような社会的経済的帰結がもたらされるのかというような重要な問題について、現在の日本の研究水準ではほとんどなにも答えることができない。
そのため、本号はこのような人材をめぐる政策と現実を実証的に検討することを課題とする。本号の特色として、日本は当然として、他の諸地域の状況にも大きな考慮がはらわれていることがあげられる。本号でこのような人びとを「グローバル人材」と名づける理由は、いわゆる「高度人材」が国民国家や市場経済への貢献という限定された視点を基本的に含意しており、また「ホワイトカラー移民」ではカバーする対象がせますぎるということにある。
本号が、今後地球社会で重要な役割を果たしていくことになる「グローバル人材」についての認識を深める、ひとつのきっかけとなることを期待したい。
2015年4月1日 移民・ディアスポラ研究会代表 駒井洋