目次
序章 教育格差をこえる日本・ベトナム共同授業研究の歩み――ベトナム教育改革を背景として[村上呂里]
1 本書の目的
2 研究の経緯
3 研究の背景――ベトナム教育改革の動向
(1)2005年の教育法改定をめぐって
(2)2015年の教育改革に向けて
4 先行研究と本研究の特色
(1)地域間共同による教育格差をこえる実践
(2)子ども中心主義教育を実践してきたベテラン教員の参加
(3)開発教育・異文化理解教育からの視点
(4)日本語・ベトナム語2か国語による論考
5 本書の構成について
第1章 第1回共同授業研究会(2009年12月27日、クックドゥオン小学校にて)
1 授業「ベトナム語(Tieng Viet)」(1年生)[Dang Thi Thao]
2 授業「地理・ベトナム南部の民族」(4年生)[Dinh Thi Minh Hoa]
3 授業「太陽と山に住む人たち(1)」(4年生)[善元幸夫/通訳:那須泉]
4 授業研究会
第2章 第2回共同授業研究会(2010年9月8日、クックドゥオン小学校にて)
1 授業「世界の食べ物」(4年生)[西岡尚也/通訳:那須泉]
2 授業「太陽と山に住む人たち(2)」(5年生)[善元幸夫/通訳:那須泉]
◎子どもたちが授業の中で書いた作文
3 授業研究会
4 まとめにかえて――善元幸夫「太陽と山に住む人たち」の授業について[村上呂里]
第3章 集中講義とワークショップ(1)(2012年9月18日、タイグェン師範大学にて)
1 アイスブレイキング・コミュニケーションゲーム[岩木桃子]
2 講義「日本における『子ども中心主義』の歴史――自らの教員体験に基づいて」[善元幸夫]
3 ワークショップ「ビデオ『未来の学校 新宿区立大久保小学校』を視聴して」[那須泉・村上呂里]
4 第1日目終了後の学生の感想と疑問に答える[善元幸夫]
第4章 集中講義とワークショップ(2)(2012年9月20日、タイグェン師範大学にて)
1 講義「世界地図と平等・公平な社会を考える授業」からの考察――講義シナリオとベトナム大学生の感想を中心に[西岡尚也]
2 ワークショップ「子どもたちへ伝えたい思いを表現する」[村上呂里]
◎ワークショップ参加者の作文と絵
第5章 タイグェン師範大学学生による研究授業とワークショップ(2012年12月14日、トゥオンヌン小学校にて)
1 タイグェン師範大学学生による研究授業[Aチーム]
2 タイグェン師範大学学生による研究授業[Bチーム]
3 ワークショップ「楽器の来た道、音楽の行く道」[コウサカワタル]
4 授業研究会――学生たちの研究授業について
◎学生たちの感想文
第6章 ベトナム側はこの試みをどう受けとめたか
1 共同授業研究プログラムの意義[Pham Hong Quang]
(1)教育人文科学的な意義
(2)教育科学理論の側面からの意義
(3)教育の方法と形式に関するドイモイの意義
(4)ベトナム山岳地域における教育研究の障壁と改善策
2 タイグェン師範大学と琉球大学教育学部の協力がめざす道程[Tu Quang Tan]
(1)きめ細かな準備と計画が授業の成功の鍵
(2)既成の教材に依存しない
(3)生徒のやる気を引き出すさまざまな配慮とツール
(4)生徒の心理状況によって変容する授業内容と机の配置
(5)授業研究会はパラレルな意見交換の場
(6)結論
3 【補論】新宿区立大久保小学校日本語国際学級の授業を参観して[Nguyen Thi Nhung]
(1)言語を教える際の諸原則を遵守することについて
(2)教育内容について
(3)方法について
(4)交流・情報交換について
第7章 マイノリティの尊厳から考える教育課題――ベトナムと沖縄の交流の意義[村上呂里]
はじめに
報告「マイノリティの尊厳から考える教育課題――ベトナムと沖縄の交流の意義」
1 アジアにおける沖縄
2 ベトナムと沖縄の歴史的共通性
3 〈国民統合の場〉としての近代教育システム
4 教育システムの変革
5 〈中央〉‐〈周縁〉という関係性の脱構築――マイノリティの〈声〉を聴く
おわりに
終章 共同授業研究の成果と課題[村上呂里]
1 少数民族の〈声〉を聴くことこそ、教育格差をこえる根幹となる
2 教育困難地域における教育実習の重要性――「子ども理解」こそ教育改革の質を高める
3 教育格差をこえる実践知の共有
4 マイノリティの〈声〉を社会的メッセージへと転化するための教育方法の開発
5 地球市民教育の実践的提案
おわりに――地域間共同による教育格差をこえる展望
あとがきにかえて
前書きなど
序章 教育格差をこえる日本・ベトナム共同授業研究の歩み――ベトナム教育改革を背景として[村上呂里]
ベトナムでは、2015年の教育改革に向け、近年、lay hoc sinh lam trung tam(直訳すると「学生(注:高校生以下の児童・生徒の呼称)中心主義」となる。以下、ベトナム語の声調記号は略した形で示す)をキーワードとする議論が盛んに興っている(具体的には本章の3で述べる)。
ベトナム少数民族地域と沖縄は、国民国家への〈包摂〉と〈排除〉をめぐる緊張関係を歴史的に強いられ、今日も教育格差の矛盾を抱えている。筆者らは、「子どもの尊厳」の視座から、lay hoc sinh lam trung tam をめぐる議論を深めることを願い、地域間共同のもとに授業研究会を積み重ねてきた。本書は、その歩み(2009年~2012年、表1参照)を報告し、成果と課題を明らかにすることを目的とする。
(…中略…)
5 本書の構成について
共同研究については上記のような特色を持つが、本書は、先にも述べたように、共同研究の歩みを第一次資料として記録し、報告するという意味合いが強い。
「共同」の生成発展のプロセスとして、
○ベトナム側の教員や研究者、学生、子どもたちと日本人研究者・教員がどのように出会い、互いにどのように実験授業を行い、どのように授業研究会を行ったか
○大学での集中講義やワークショップを通して、どのような学びの姿や表現(声)が生まれたか
○集中講義やワークショップを踏まえて、学生が少数民族地域の小学校でどのような学びをつくっていったか
○こうした全プロセスをベトナム側研究者や教員、学生がどのように受けとめたか
など、ありのままに記録を残すこと自体に意義があると考えた。その記録を共有してこそ、今後各々の地域での授業改革の質を、子どもや学生の学びの姿や表現に具体的に根ざして向上させていくことができるだろう(なお本書のベトナム語翻訳版も併行して作成しており、ベトナム側に配付する予定である)。記録であるがゆえに、また共同研究者が小学校教員、演劇教育実践家から楽器演奏者まで幅広く、語り口も多様であるがゆえに、読者としては本書の全体像をつかみにくいかもしれない。ここでガイダンスとして、各々の章に収められた記録の関係性を示すために、全体の構成について説明しておきたい。
(…後略…)