目次
はじめに ジョン・ウエインは没後35年、なぜ未だに人気ベストテン?
アメリカの何がウエインを浮上させ続けているのか?
「ロンドンデリー・エア」vs「ダニー・ボーイ」
イギリス人が造った「ダニー・ボーイ」!
第1章 「茶会派」、そして南北で変わるスコッチ=アイリッシュ
尻尾(「茶会派」)が犬(共和党)を振り回す
一律ではない「茶会派」の貌
ハリウッドとスコッチ=アイリッシュ
「高地南部」に住み着いた「境界人」
スコットランド独立騒ぎで見えてきたこと
分離独立か? 多元文化主義か?
南北でタイプが違うスコッチ=アイリッシュの多様性
大西部ではWASPまでスコッチ=アイリッシュ化
オバマはスコッチ=アイリッシュ大統領では21人目
第2章 「文化英雄」としてのトリックスター
ともに「等身大よりでっかい」アメリカの「メガ・ストーリー」vs「反メガ・ストーリー」
「依存と反抗のダブルバインド」
つまらない「正伝」、わくわくする「外伝」
ポストモダン時代の活性化を担う文化英雄
最大の補助金をくれる連邦政府に噛みつく南部
「南部では過去は永遠に現在」(ウィリアム・フォークナー)
第3章 「アメリカの7つの地域文化圏」内でのスコッチ=アイリッシュの位置づけ
イギリスからの移住4波が形成した地域文化圏
「クエイカー文化圏のピューリタン」、ベンジャミン・フランクリン
ジェファスンより1年前に「独立宣言」していたスコッチ=アイリッシュ
対英独立宣言の最初の署名者はスコッチ=アイリッシュ
「『被害者』&『加害者』のダブルバインド」
第4章 スコッチ=アイリッシュの「私人」と「公人」
「自然発生的事件」と「仮想的事件」に分かれる2つの「茶会事件」
初めて浮き彫りにされた「茶会派」の精神構造の典型例
「DNA鑑定でおれの先祖はステュアート王家」
「ポーランド人はアーリア人」をめぐる応酬のおかしみ
天晴れ、茶会派老人! 「まさにそれが問題だ」
公人としてのスコッチ=アイリッシュ
ウエッブ、ブッシュに剣突を食らわせ「民衆英雄」に
スコッチ=アイリッシュのお株を奪ったカール・ロウヴ
「スコッチ=アイリッシュ公人」同士の関係のむつかしさ
第5章 「文化戦争」を発動した「トリックスター大統領」
「獅子心王リチャード」からリチャード3世への転落
「私の個性に残されたニクスン家のクエイカー遺産」
「大統領が行えば、すなわち非合法ではない」
ニクスン、「外交的狡智」、冴えわたる
「共和党多数派」形成の背景を見抜いた「神童」
「民主党の飢饉」を30数年前に的中
「南部戦略」の実行者とフィリップスの迷走
「そこで今宵、サイレント・マジョーリティの諸君」
ビュキャナンの苛烈極まる民主党分断作戦
ニクスン生誕100周年、ビュキャナン、「ボス」をギャッツビーに擬す
「文化戦争」=オバマ大統領
「中絶戦争」における「キリスト教右翼」の回心
「アメリカの魂を求める宗教戦争」?
第6章 「ほら話」の合流点、ハリウッド
ニクスン、『トルー・グリット』、ウエイン
「異化作用」の効能
「アメリカの本質的な魂は非情、ストイックですさまじい」(D・H・ロレンス)
「人生でいちばんゾクゾクしたのは、バファロウ・ビルをでっち上げたときだ」
第7章 「赤狩り」、ハリウッドに襲来
「ハリウッド・テン」のトランボの復権
オットー・プレミンジャーとカーク・ダグラスの侠気
「反HUAC」突っ張りの数例
ボガートの屈辱とヒューストンの突っ張り
『真昼の決闘』vs『波止場』
カザン、ハリウッド双方の「揺れ動き」
「赤狩り」─「冷戦」恐怖からハリウッドを「国内の敵」とした「劇場空間」
恐怖の発動者、「ハリウッド・ターミネイターの素顔」
ランキンの選挙基盤と「証拠」抜きでの告発
窮地のハリウッド・トップ、「人身御供」戦術
第8章 「再異化」とフォード、ウエイン、ヒューストン
「アメリカでの少数派」vs「ハリウッドでの少数派」
「ハリウッドの非ユダヤ系」の牙城
「私の名はジョン・フォード、西部劇を造っております」
「善悪の境界」ならぬ「保革の境界」を自在に往復
スコッチ=アイリッシュとは思えないウエインのフォード傾倒
人が「自分は飛べる!」と実感できるとき
監督としてのフォードとの際立った違い
5人の配偶者と歩んだ5つの人生
ヒューストンvsウエインinジャパン
「あの世へは栄光に包まれて足を踏み入れたい」
♪「海を越えてアイルランドへ行く折りがあれば」
終わりに ヒラリー・クリントンの「ガリア戦記」
スコッチ=アイリッシュ州、2008年民主党予備選でのヒラリー・クリントンの戦績
ヒラリー・クリントンへの好感度
縮図としてのウエスト・ヴァージニア
2014年中間選挙での共和党の茶会派潰し
茶会派の不似合いな臥薪嘗胆と再びの反抗
前書きなど
はじめに ジョン・ウエインは没後35年、なぜ未だに人気ベストテン?
アメリカの何がウエインを浮上させ続けているのか?
世論調査会社ハリスが1994年に映画俳優の人気調査を開始、その年はクリント・イーストウッドが1位、トム・ハンクスが5位、ジョン・ウエインが2位だった。この年、ハンクスは映画『フォレスト・ガンプ』が大当たりしていた。しかし、ウエインは没後25年だったのである!
翌95年、イーストウッドが『マディスン郡の橋』で大ヒットを飛ばしたにもかかわらず、ウエインがトップになった。「死せる孔明、生ける仲達を走らす」みたいな話ではないか。この年、当時の筆者の勤務先を出たOBの編集者の母校での集まりでウエインについて話したが、早耳のはずの彼らがこの世論調査結果を知らず、驚いていた。彼らの平均年齢は、おそらく当時還暦手前の筆者より10歳前後若かったと思われる。つまり、日本人でウエイン映画を映画館で見た最後の世代ではなかったか。
ちなみにこの95年、イーストウッド2位、デンズル・ワシントン4位、ハンクス6位。以後、ウエインは97年4位以外、96~00年2位、翌01年~02年6位、03~04年7位、05~06年3位、07年6位、08年3位、09年7位、10年3位、11年5位、12年6位、13年7位。この間、イーストウッド、ハンクス、ワシントン、ジョニー・デップ(スコッチ=アイリッシュ)が上位を競り合い、女優ではジュリア・ロバーツが01年にトップ、03年3位、03年2位、04年3位と気を吐いて、徐々に低下、11年に消えたが13年に4位復帰。
ハリス調査で性別、地域、支持政党、保革、世代、学歴などで最もまんべんなく得票してきたのはハンクスで、ウエイン支持層は「68歳以上の保守派」に偏っていた(2009年以後は本書で扱う「茶会派」と重なる)。2013年度のハリス社調査はオンラインで18歳以上の成人2311名から回答を得た。
「9/11」とイラク侵攻時点でウエインの支持率が低下、05~06年と10年が3位と立ち直ったものの(2010年は反オバマの「茶会派」の支持)、以後再び低下、これはこの俳優の高齢者ファンの死亡で支持層が減ってきた結果と思われる。
さて、以上から覗ける背景は、この俳優の魅力が歴史的かつ民族集団的次元に淵源することである。つまり、ウエインの本名、マリオン・ミッチェル・モリスンから分かるように、彼は「スコッチ=アイリッシュ」の系譜に属する。
(……)