目次
監訳者はしがき
序文
謝辞
要旨
第Ⅰ部 研究の背景・目的・方法
第1章 多様化が進む子どもたちと効果的な教師教育[トレーシー・バーンズ/ヴァネッサ・シェイドイアン=ガーシング]
第1節 はじめに
第2節 多様性における背景の重要性
第3節 学校や教室にとっての課題
第4節 制度上の課題:子どもの多様化に応える教師教育と教職環境の整備
第5節 多様性を拓く教師教育とその重要性
コラム1.1 オンラインによる質問調査の結果から
第6節 本書の概要
第2章 教育的文脈における多様性[ミカエル・ルシアック]
第1節 はじめに
第2節 文化と多様性に関する多角的な検討
第3節 国民国家における多様性とその歴史
第4節 多様性と国際移民
第5節 多様性を構成する要因の複雑化
第6節 文化的多様性、文化の違い、学校の役割
第7節 多様性に対する回答:多文化教育と異文化間教育
第8節 政策と実践への提言
第3章 OECD国際教員指導環境調査(TALIS)と多様性のための教師教育[ベン・ジェンセン]
第1節 はじめに
第2節 TALISとはどんな調査か
第3節 教師の専門性開発とそのニーズ
第4節 TALIS調査にみる教師の専門性開発
第5節 結論と政策への示唆
第4章 教育の場での多様性:構成要素に分けてデータを分析する重要性[ブルース・ガーネット]
第1節 はじめに
第2節 実証研究とデータの活用
第3節 研究方法:対象グループと検討の観点
第4節 卒業率に関する構成要素ごとの検討結果
第5節 第12学年レベルの数学・英語の受講状況と平均点
第6節 多変数モデルによる分析
第7節 教師教育のための議論と観点
第8節 結論
第Ⅱ部 教師教育の取り組み
第5章 多様化と教育格差:教師教育の役割[ラッセル・ビショップ]
第1節 はじめに:多様性と教育格差
第2節 マオリの子どもと教育課題
第3節 Te Kotahitangaプロジェクトから導き出された6つの課題
第4節 結論
第6章 多様な教師の確保と定着[リック・ウォルフ/サビヌ・サーヴェリエンヌ/マリーケ・メーウィッセ]
第1節 はじめに
第2節 非ヨーロッパ系エスニックマイノリティの学生とオランダネイティヴの学生の教員養成プログラム修了率:学位プログラムはどの程度の影響力をもつのか
第3節 オランダの教育システムと高等教育への道のり
第4節 教員養成プログラム:事例研究の方法
第5節 教員養成プログラム:事例研究の結果
第6節 結論と提言
第7章 カリキュラムの設計と開発:新世代の教師教育担当者への示唆[H.リチャード・ミルナーⅣ/F.ブレーク・テノアー]
第1節 はじめに
第2節 アメリカ合衆国における教師教育
第3節 結論と示唆
コラム7.1 カリキュラム設計・開発の原理
第8章 異文化間コンピテンスに関する教師教育モデル:イタリアの経験から[ミレーナ・サンテリーニ]
第1節 はじめに
第2節 コンピテンスに対する横断的・多次元的アプローチ
第3節 異文化間コンピテンスの定義と評価のためのモデル
コラム8.1 異文化に関わる意識を高めるトレーニングモデル
第4節 異文化に関する意識を高めるトレーニングの構築
第5節 異文化間コンピテンスに関する受講者たちの捉え方
第6節 結論と次の段階に向けて
第Ⅲ部 理論から実践へ
第9章 均質性重視から多様性重視へと変わるドイツの教育[アンネ・スリフカ]
第1節 はじめに:ドイツ社会に対する認識の変化
第2節 ドイツは移民社会なのか
第3節 多様性に関するその他の問題:ジェンダー問題と特別なニーズをもつ子どものインクルージョン
第4節 多様性をはばむ早期の選抜制度と教育制度にみられる序列化
第5節 均質性重視から異質性重視へ:変わるドイツの教育
第6節 均質性重視から異質性重視へ:考え方や見方を変えることの難しさ
第7節 異質性重視から多様性重視へ:今後に向けて
第8節 変化の主体を養成するために教師教育がはたす役割
第10章 スペインにおける多様性のための教師教育:理論から実践への移行[ミケル・アンヘル・エソンバ]
第1節 はじめに
第2節 教師教育と多様性に関する現在の状況:新たな現実に対応した議論へ
第3節 政策と実践の間の「当然の」ギャップ
第4節 多様性に対する理解と学習のさらなる進展に向けて:スペインの事例から
第11章 多文化教育を取り入れるスクールリーダー:北アイルランドの事例[クレール・マクグリン]
第1節 はじめに:多文化主義への挑戦
第2節 紛争を抱える社会における多文化教育
第3節 北アイルランドにおける統合教育
第4節 統合学校における統合アプローチ:調査方法
第5節 統合学校における統合アプローチ:調査結果
第6節 統合学校における統合アプローチ:調査結果の考察
第12章 多様性の教育と授業実践:アメリカ合衆国ワシントン州の事例[ジェノバ・ゲイ]
第1節 はじめに
第2節 着手すべき課題
第3節 多様性をめざす実践の理念
第4節 結論
第Ⅳ部 今後の課題
第13章 効果的な実践を支援するための課題[トレーシー・バーンズ/ヴァネッサ・シェイドイアン=ガーシング]
第1節 はじめに
第2節 多様性を拓く教師教育と横断的なテーマ
第3節 既存の知識と政策目標とのギャップ
付録A OECDオンライン質問調査
A.1 回答者の特徴
A.2 教員としての仕事、教師教育担当者としての仕事
A.3 教室での多様性のための準備
コラムA.1 親や学校周辺の住民との協働
A.4 結論
コラムA.2 学校行政機構による支援
執筆者紹介
訳者あとがき
監訳者・訳者紹介
――――図の一覧
図3.1 学校における教育に対する評価の仕組み:TALIS調査で収集されたデータ
図3.2 多文化環境での学習指導に関するパス解析
図4.1 NES、ESLの生徒全体、ESLを受講している各民族文化グループの卒業率
図4.2 ESL受講開始直後の生徒の5年後卒業率と6年後卒業率
図4.3 世帯収入を算入することによって得られる民族文化グループごとの6年後卒業率
図4.4 6年以内での卒業、第12学年レベルの数学および英語の受講に関するロジスティック回帰モデルのオッズ比
図4.5 第11学年レベルの数学と第12学年レベルの英語における平均値を予測する複合回帰モデルの標準化ベータ比重
図6.1 エスニックマイノリティの学生の高い中退率に対する説明
図6.2 オランダ高等教育への道のり
図7.1 カリキュラム設計・開発に関する複雑な相互作用
図9.1 パラダイムシフト:均質性重視から異質性重視、そして多様性重視へ
図12.1 幼稚園から12学年までの公立校における人種/エスニシティの分布
図A.1 国ごとの回答者の人数
図A.2 年齢とカテゴリーごとの回答者の内訳
図A.3 回答した教員の担当教科
図A.4 多様性のための準備の必要性
図A.5 多様性のための準備がよくできている分野
図A.6 多様性のための準備が不足している分野
図A.7 回答された評価の種別
――――表の一覧
表3.1 教師の専門性開発ニーズ:多文化環境での学習指導(2007~08年)
表3.2 学校評価の基準(2007~08年)
表3.3 多文化環境での学習指導に関するパス解析における相関関係(2007~08年)
表4.1 ESL受講経験のある生徒と3つのサブカテゴリー:ESL受講開始直後の生徒、低所得世帯、高所得世帯
表4.2 NES、ESLの生徒、各民族文化グループのESLの生徒ごとにみた、第12学年レベルの数学および英語の受講率と学力の状況:ESL受講経験のある生徒とESL受講開始直後の生徒の比較
表4.3 NES、ESLの生徒、各民族文化グループのESLの生徒ごとにみた、世帯収入を算入したうえでの、第12学年レベルの数学および英語の受講率と学力の状況
表10.1 多様性への包括的な見方と、単純化・細分化された制限的な見方
表10.2 スペインの4つの大学の新しい教員養成カリキュラムにおける多様性に関わる科目
表11.1 統合学校の校長の統合へのアプローチ
表11.2 統合アプローチの要約
表A.1 教員と教師教育担当者によって指摘された多様性に関する課題
表A.2 教員と教師教育担当者によって指摘された多様性に対する戦略
前書きなど
監訳者はしがき
かつて国境を越える人々や異なる文化を背景とする「多様性」は、国民統合を進める学校にとって克服の対象とみなされることが多かった。公教育を担う学校は、その制度的基盤である国家と分かちがたく結びついていたからである。
しかし、グローバル化は各国の人口構成や法制度、人々の意識を大きく変えつつある。OECD各国ではこの十数年で移民や複数国籍保持者が増加し、重国籍の容認に向けた国籍法の改正等が相次いでいる。日本においても、2014年6月、出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律が成立した。この法律では、外国人の受け入れ、とりわけ高度専門職の外国人の受け入れを促進するため在留資格として「高度専門職第1号」と「同第2号」を創設するなど、在留資格の拡大と活動内容の緩和が明記された。
日本の学校もこうした動向と無縁ではない。学校に通う子どもたちの多国籍化や多文化化は進み、文部科学省の調査によれば、2012年5月現在、公立の小・中・高校等に在籍する外国人児童生徒は約7万2,000人である1。学校は、文化を習得する場であるだけでなく文化接触、文化混淆の場となっている。
本書『多様性を拓く教師教育』は、学校における多様性の可能性を拓くのは教師や学校であること、また多様性を活かす教師を育て、支援することは教師教育者や政策の役割であることを含意している。ここでは、本書が刊行されるに至った経緯と背景を記しつつ、日本への示唆をまとめておきたい。
(…後略…)