目次
はじめに
第1部 精神力動的診断の枠組み
1.力動精神医学の成り立ち
2.関連する用語について
3.精神力動的診断とは
4.今日的な精神力動的診断
(1)パーソナリティや発達特性、生活史、現病歴などから、問題の発現状況を読み解く
(2)自我機能と超自我の評価
(3)前意識、無意識に目を向ける(夢、身体化、失錯行為、抵抗、防衛など)
(4)治療・援助や治療者・援助者に対して抱く感情(転移)と逆転移について検討する
(5)パーソナリティの評価
(6)心理的資質 psychological mind の評価
(7)生物的-心理的-社会的に捉える
(8)自己愛の病理について
第1部まとめ
第2部 精神力動的診断の方法
5.精神力動的な診断・アセスメントのための面接
(1)面接の進め方
(2)「いま、ここで」の視点
(3)自分に転移・投影されているものとして考えてみる
(4)自分の理解を伝えてみる
(5)発達理論に照らしてみる
6.対象喪失概念をアセスメントに活かす
(1)対象喪失と喪の仕事
(2)躁的防衛 manic defense
第2部まとめ
第3部 精神力動的観点の応用
7.薬物療法をめぐる力動的な視点
(1)治療抵抗とコンプライアンス
(2)治療者の無力感と過剰な処方
8.入院治療や入所施設における力動的なアセスメント
(1)これまでの対人関係の再現と考えてみる
(2)「何かを伝えたいのかもしれない」と考えてみる
(3)チームに起きていることをクライエントの理解につなげる
9.家族を力動的にアセスメントする
(1)一般的な家族機能のアセスメント項目
(2)対象関係論的な視点
(3)世代間境界
(4)システム論的アセスメントと力動的アセスメント
(5)対象喪失体験との関連
事例1/事例2/事例3
10.発達障害臨床と精神力動的な観点
(1)心理療法的アプローチの可能性について
(2)発達障害と虐待
第3部まとめ
おわりに
前書きなど
はじめに
本書は、拙著『アセスメント技術を高めるハンドブック――ケースレポートの方法からケース検討会議の技術まで』(明石書店刊)の最終章で簡単に紹介した「精神力動的な診断・アセスメント」を膨らませたものです。執筆の経緯を述べたいと思います。
私の本務先であった東京都立小児総合医療センターは、児童・思春期精神科の専門病院であった東京都立梅ヶ丘病院の他、都立の小児病院を統合した子どものための総合病院で、児童・思春期精神科は7病棟、202床を有しています。着任してみてわかったのは、相当に多忙な職場であること、1例1例にとにかく時間のかかる児童・思春期精神科臨床に若手・中堅の医師が真摯に取り組んでいることでした。また、若手の人たちが精神分析に関する本をたくさん読んでいることを知りました。同時に、本で得た知識が必ずしも効率よく臨床に結びついていないようにもみえました。とくに、パーソナリティと治療者-患者関係の捉え方に「伸び代」がありそうで、その点で自分も少しは力になれるかもしれないと感じました。最初は症例検討会に生物-心理-社会的なアセスメントを導入し、精神・心理療法の勉強会を始めました。その後、症例検討会やスーパービジョンで患児のパーソナリティ傾向や治療者-患者関係について考えてみることを指導し、入院治療のケースを転移-逆転移モデルで評価・アセスメントする視点を導入しました。
これらの試みと同時に、精神分析の入門書をあれこれ読んでみました。以前に指導医からもらった古い別冊やプリントアウト原稿も引っ張り出して読み直し、自分が受けた指導を思い返しながら、精神分析的・精神力動的な視点をアセスメントに活かす方法をできるだけわかりやすく解説しようと書き溜めてきたのが本書です。その趣旨からして、本書にオリジナルな発想が少ないのはお許しいただくこととして、学術的な正確さを欠いていたり、簡略すぎる部分についてはご指摘いただきますよう、お願い申し上げます。
私は前著で、医療、心理、保健、福祉領域で必要とされているアセスメントを、『一つ一つの情報を自分なりに解釈し、それらを組み立て、生じている問題の成り立ち mechanism を構成し(まとめ上げ)、支援課題を抽出すること、あるいは、その人がどんな人で、どんな支援を必要としているのかを明らかにすること』と定義しました。前著では、問題の成り立ちを生物-心理-社会的に構成する具体的な方法を示したつもりです。本書は、「その人」をより深くアセスメントすることに主眼を置いています。
不勉強な私が本書を執筆することができたのは、東海大学医学部精神科学教室の卒後教育を受けたからに他なりません。精神分析的精神療法と精神力動的精神医学を学ぶことができる研修・臨床環境を与えてくださった岩崎徹也先生、橋本雅雄先生、狩野力八郎先生、入院治療チームやスーパービジョンでご指導いただいた諸先輩方に感謝を申し上げます。とくに岩崎先生には、本書の執筆中、精神力動的精神医学の歴史などについて改めて多くのことをご教示いただきました。また、前職の同僚・研修医諸氏に感謝しています。皆さんに何を身につけてほしいかを考えながら作成した研修資料が本書の執筆に直接つながりました。
本書をお読みいただくことで、精神科医療の現場で働く人たちや心理専門職の他、保健・福祉分野の専門職にとって精神力動的診断・アセスメントが身近なものとなり、さまざまな分野でご活用いただければ、まことに幸いです。
平成26年4月 近藤直司