目次
序章
1:自治論の前提――「中心」と「周縁」間の統合と分離のプロセス
2:デンマーク領グリーンランドの自治――「中心‐周縁」関係を準拠枠としない「対外的自治」
3:「デンマーク国家」と「本土デンマーク」の峻別
第1章 問題の背景
1:問題の背景
1-1:植民地、統合、「対外的自治」
1-2:「本土デンマーク」からの経済支援
1-3:中心命題
2:本書の構成
第2章 分析視角
1:先行研究
1-1:「中心‐周縁」関係を準拠枠とする先行研究
1-2:「デンマーク国家」の中のグリーンランド
2:本書の視角
2-1:先行研究の問題点
2-2:分析視角
2-3:留意点
第3章 「対外的自治」への希求――1979年「対内的自治」権の獲得とその前後
はじめに
1:EC加盟と「対内的自治」権の獲得――1970年代の議論を中心に
1-1:1970年代初頭の政治環境
1-2:「対内的自治」をめぐる議論
1-3:「対内的自治」権の内実
2:EC域外化――1980年代の議論を中心に
2-1:変化の兆し
2-2:EC域外化推進派と加盟継続派の接近
2-3:EC域外化協定
2-4:漁業協定
3:「ペーパーフィッシュ」問題と政府一括補助金
3-1:「ペーパーフィッシュ」問題
3-2:グリーンランドの立ち位置
4:グリーンランドとEC/EU――1990年代以降の議論を中心として
4-1:EUの対応
4-2:グリーンランドの意図
おわりに
第4章 「対外的自治」権の獲得――2003年、イチリク宣言
はじめに
1:問題設定
2:チューレ問題
2-1:B-52爆撃機墜落問題――起点としてのデンマーク核政策
2-2:1968年1月21日の事故
2-3:1995年6月を境に見るチューレ問題
3:チューレ問題と「対外的自治」の接続
3-1:チューレ住民の強制移住問題
3-2:「対外的自治」をめぐるグリーンランド、「本土デンマーク」
3-3:新たな関係――防衛・安全保障分野に対する「対外的自治」
3-4:チューレ空軍基地を取り巻く環境
4:グリーンランドの「対外的自治」
おわりに
第5章 「対外的自治」権の行使――2004年、イガリク協定
はじめに
1:ミサイル防衛論争――グリーンランドの「対外的自治」
1-1:ミサイル防衛構想に対する反応
1-2:親米の「本土デンマーク」
1-3:基軸としての1951年防衛協定
1-4:「対外的自治」とミサイル防衛論争
2:イガリク協定締結へ
2-1:転換の契機
2-2:イガリク協定への「同意」
2-3:イガリク協定とグリーンランド
2-4:「1951年防衛協定の近代化」協定の真相
2-5:自発的な「同意」
おわりに――「三角関係」の未来像
第6章 「対外的自治」の顕示――2005年以降の北極利権問題と「デンマーク国家」
はじめに
1:大陸棚の帰属と北極利権問題
1-1:「本土デンマーク」=グリーンランドによるイニシアティブ――「本土デンマーク」の規範的対応とグリーンランドの「対外的自治」のリンケージ
1-2:地理的/法的位置
2:「デンマーク国家」としてのイニシアティブ――グリーンランド・ダイアローグからイルリサット宣言へ
2-1:端緒としてのグリーンランド・ダイアローグ
2-2:2007年6月、スティ・ムラー演説
2-3:「本土デンマーク」=グリーンランドのイニシアティブ
2-4:北極海会議
2-5:イルリサット宣言
2-6:「デンマーク国家」としてのイニシアティブ
3:「デンマーク国家」のイニシアティブとその背景――「本土デンマーク」の規範的対応とグリーンランドの「対外的自治」
3-1:「本土デンマーク」の規範的対応
3-2:グリーンランドの「対外的自治」
おわりに
第7章 自治領から自立領へ――「対外的自治」を起点に法制化された2009年自立法
はじめに
1:1999年自立委員会の設置
2:2004年自立委員会
3:委員会、成果報告書
4:自治領から自立領へ
4-1:自己決定権を行使する能力を持つ国際法の主体
4-2:非生物資源の所有権
4-3:非生物資源の収益分配率
4-4:グリーンランド語の公用語化
4-5:独立権の承認
5:「対内的自治」の拡大=「自立」
おわりに――「法外な善意」と「好意的態度」
第8章 「法外な善意」の諸相
はじめに
1:「本土デンマーク」の政治文化
2:もう一つの「本土デンマーク」
3:唯一の反対派――デンマーク国民党の存在
おわりに
終章
1:まとめ・示唆
2:「対内的自治」と今後の行方
参考文献
初出一覧
本書に関連したフィールド調査
あとがき
前書きなど
第1章 問題の背景
(…前略…)
2:本書の構成
本書は、次章(第2章)において、グリーンランドの「対外的自治」と実際の権限獲得、権限拡大を問う際の研究の枠組みを提示している。そこでは、グリーンランドの自治をめぐる先行研究を概観し、その傾向と問題点を指摘した上で、グリーンランドの自治要求の論理を理解する際の基点を設定している。この点で、何よりも強調されるべきは二点ある。一点目は、これまでの多くの研究では、グリーンランドで「対外的自治」が希求され、実際に権限を獲得、拡大する際の説明変数を「本土デンマーク」のグリーンランドに対する対応に見ていたのに対して、本書では、その点をふまえながらも、「対外的自治」を求める契機を域外主体・要因、すなわち「デンマーク国家」域外の主体・環境からの影響に見ている。つまり、グリーンランドは「本土デンマーク」からではなく、域外主体・環境からの影響を受けることによって「対外的自治」を願い求めてきたということである。二点目は、その契機に焦点を当てることによって、グリーンランドの「対外的自治」それ自体の性質を理解できることである。すなわち、グリーンランドは、「本土デンマーク」に対峙する形で「対外的自治」を追い求めてきたのではなく、域外主体・環境との接触に伴って生成される諸問題を解決するために、「本土デンマーク」への依存を前提とした「対外的自治」を見せてきたということである。
第2章において本書の基点を設定した上で、つづく第3章から第7章までの各章では、1970年代以降の「対外的自治」と密接なかかわりを持ち、且つ先行研究においても分析の対象となってきた5つの事例を引きながら、グリーンランドの「本土デンマーク」への依存を前提とした「対外的自治」の変遷を辿っている。まず、第3章では、「対外的自治」の萌芽期として、1970年代以降のEC/EUとの接触を議論の中心に据えている。(……)
第4章では、90年代以降の「対外的自治」の主戦場となる在グリーンランド米軍基地(チューレ空軍基地)の事例を参照しながら、特に防衛・安全保障問題を中心として、グリーンランドの「対外的自治」とアメリカとのかかわりを扱っている。(……)
第5章では、前章のテーマを引き継ぎ、2002年12月以降のチューレ空軍基地と「対外的自治」とのかかわりを扱っている。(……)
第6章では、2000年代中葉以降の北極海域(the Arctic)をめぐる境界確定・画定問題を扱っている。北極の境界問題に対してグリーンランドは、当海域との地理的近接性(geographical proximity)を有する主体の中で唯一の非国家主体として、「本土デンマーク」との結び付きを保持し、「デンマーク国家」の次元から「対外的自治」への志向を顕示し、当海域の利権問題を解決するために強いイニシアティブを発揮している。他方においてグリーンランドは、北極の事例を通じて、これまでは棲み分けがクリアにできていた「対外的自治」と「対内的自治」の区別が難しくなる状況に置かれている。(……)
第7章では、1990年代中葉以降のチューレ空軍基地をめぐる問題(防衛・安全保障をめぐる問題)及び北極海域における境界問題がグリーンランドの「対外的自治」への志向に影響を与え、関心が「対内的」な領域にまで波及したことを明らかにすべく、1999年にグリーンランド自治政府内に設置された自立委員会及び2004年に設立されたグリーンランド・「本土デンマーク」自立委員会での議論を扱っている。(……)
第8章では、第3章から第7章までの記述を受ける形で、「本土デンマーク」のグリーンランドに対する政策的対応を中心に扱っている。その際に、議論の導き手として、民間人のオーレ・コースゴー(Ole T. Krogsgaard)がデンマーク全国紙「ユランス・ポステン(Morgenavisen Jyllands-Posten)」の紙面で展開した「法外な善意(enorme vrdier)」と呼ぶ「本土デンマーク」のグリーンランドに対する政策的対応を扱っている。(……)
本書の締め括りとして終章では、グリーンランドの「本土社会への依存を前提とした=対内的自治を問わない対外的自治」の論理を再度確認した上で、これまで多くの場で引照されてきた「中心」と「周縁」間の統合と分離のプロセスを準拠枠とした自治に対する理解について、グリーンランドの「対外的自治」をめぐる考察から得られる示唆を提示している。その上で、主に第6章で扱った近年の気候変動の文脈の中で、新たな局面を迎えているグリーンランドの「対外的自治」と「対内的自治」について考察を加え、その行方を占っている。