目次
はじめに――自分史を語るということ、そしてそこから学ぶもの(喜多一憲)
I 今日まで・そして明日から
居場所をなくす不安と闘いながら(小林大)
夢はあきらめるものではなく、つかみ取るもの(瀬川舞佳)
俺の「ろくでもない人生」からの逆転(松本明祐)
面白くかっこええ大人を目指して(あらいちえ)
生んでくれてありがとう 育ててくれてありがとう(蛯沢光)
歩み出す一歩を支えてくれる言葉(河口智美)
生きるために必要なことは施設で学んだ(松井啓介)
施設に入所して私は変われました(坂井田美穂)
さまざまな人とのがりを得て(徳廣潤一)
人が私を育ててくれた(原島ひとみ)
「いい経験ができた26年間」と言えるようになって(成田雄也)
世界は、愛で満ちていてほしい(鎌田成美)
II 確かな居場所
「日向ぼっこ」――孤独を癒す場所(小金丸大和)
自立援助ホーム「ふきのとう」と私(澤田正一)
若松寮に行けてよかった(澤村真由美)
二組の里親家庭で育って(高橋成貴)
いまだかつてない「わたし」の語り(中村みどり)
血縁によらないがりを経験して(山口匡和)
自分の人生が好き(佐野優)
いつも子どもたちの目線で(清水真一)
プライマリー――確かな居場所ができた今、思うこと(関戸敏夫)
あとがきにかえて(吉村美由紀)
資料全国の当事者団体/用語解説
前書きなど
あとがきにかえて
○心の内を見つめて――生きてきた足あとを語ることの意味
家庭での壮絶な生活体験、施設や里親さんのもとでの新たな生活、そして現在の生きる姿をありのままに、心情を言葉にうつして書き留めていただきました。
ときを経て、子ども時代に起きていたことをあらためて回想し、当時感じていた大人への疑問、不信、怒り、堪えがたい苦悩、絶望感、あらゆる心の内なる暗闇の部分に向き合うことは大変な労力が必要だったと思います。「何が起きていたのか?」「自分は何を感じ、考えていたのか?」……その様子がとても鮮明に描かれています。
それぞれの人生のなかには、社会情勢、オイルショックやバブル崩壊といった時代背景から家族が経済的に破たんした経緯が描かれるなど、日本社会の動きが背景にうっすらと見えるものもありました。また、心身の病やアルコール依存、借金、家族の離散や生活困窮、暴力、何らかの精神的依存、社会からの孤立、そして虐待へつながり、家族が子どもにとって安心できる場所ではなくなっていくプロセスが見えてきました。その最終段階に、社会のさまざまな重圧や家族の抱える困難を多く請け負うことになるのは、子どもたちであったということが感じられました。
そのような子ども時代を過ごされ、傷つき体験、命を脅かされるような生活、自暴自棄、葛藤を経て、気持ちを整理することができるまでに、大きな壁にぶつかりながら長い道のりがあったものと思われます。
しかし、どのような過酷な生活経験をしていても、堪えがたい傷つきを心に抱えていても、自らの力、自己回復力をふるい起こさせてくれる体験や人との確かな出会いを心に刻んでいることが、多くの方の語りに見受けられたように思います。そして主体的に生きる力を備え、自らの経験を“糧(力)”にして何か発信していこうとするエネルギーが感じられます。それは、いったい何でしょうか。
(…後略…)