目次
巻頭のことば もう一つの「第二のセーフティネット」をめぐる政策論議がはじまった(福原宏幸)
特集1 震災と貧困――貧困研究会第4回研究大会共通論題より
基調報告:震災と貧困への基本視角(岩田正美)
震災後の釜石市近郊の貧困問題(菊池隆)
沿岸被災地の後背地一関市の問題状況(齋藤昭彦)
福島県における震災・原発事故と貧困(下村幸仁)
仙台市における支援活動から見えてきたこと(渡辺寛人)
特集2 アメリカの格差反対運動とその背景
(1)不平等社会とウォール街占拠運動(青木デボラ)
(2)アメリカの新しい労働組織が担う貧困・格差問題解決における役割(山崎憲)
シリーズ:貧困研究の課題8 特別講演
子どもと貧困――貧困の連鎖と自立支援(青木紀)
この人に聞く 第8回
加藤彰彦(沖縄大学学長;作家・野本三吉)――沖縄の地から、地域と人々の暮らしの再生に取り組む(インタビュー:松本伊智朗)
投稿研究ノート
・生活保護をめぐる最近の動きと改革の方向性(吉永純)
書評論文
阿部彩著『弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂』(岩永理恵)
伊多波良雄・塩津ゆりか著『貧困と社会保障制度――ベーシック・インカムと負の所得税』(浦川邦夫)
国内貧困研究情報
1 貧困研究会第4回研究大会報告(2011年11月19日~20日 於:岩手県立大学ほか)
(1)自由論題2 戦後の調査にみる知的障害児者・家族の貧困と生活実態(田中智子)
(2)自由論題3 家族の貧困と障害―虐待事例にみる生活困難(藤原里佐)
2 注目すべき調査報告書 無料低額宿泊所および法的位置づけのない施設に関する厚生労働省調査(山田壮志郎・村上英吾)
貧困に関する政策および運動情報 2011年7月~2011年12月(山田壮志郎/五石敬路/小西祐馬/村上英吾/北川由紀彦)
貧困研究会規約
原稿募集及び投稿規定
編集後記
前書きなど
巻頭のことば もう一つの「第二のセーフティネット」をめぐる政策論議がはじまった(福原宏幸:大阪市立大学)
2009年から3年の時限的措置として実施されてきた緊急人材育成支援事業は、派遣切り等で失業しても短期雇用のため雇用保険加入から排除され失業手当がない者、かつ派遣会社の寮などからの退出を余儀なくされている者が増えていることに対して、緊急対応として実施された。この事業によって、対象者に対する職業訓練6ヶ月(場合によっては1年)、最低生活費月約11万円そして必要に応じて住居費の提供などが新たに設けられた。これは、第一のセーフティネットである雇用保険と最後(第三)のセーフティネットの生活保護の不十分さを補うものと期待され、第二のセーフティネットとして恒久化されることになった。こうして、2011年5月に求職者支援法(「職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律」)が成立し、10月から実施された。しかし、この制度はセーフティネットとして十分に機能しているとはどうも言えないようである。
緊急人材育成支援事業は、それこそ緊急に実施されたことによる制度的問題を抱えていたといわれる。たとえば、民間委託による訓練メニューには就職につながらないものが相当に含まれていたこと、給付金目当てで職業訓練をきちんと受講しないといったモラル・ハザードなどが指摘された。求職者支援制度は、こうした問題を克服しつつ第二のセーフティネットとして制度設計されたものであった。とはいえ、受託民間事業者への管理や訓練受講者のモラル・ハザードの防止といった点が強化され、利用者を大きく限定することになった。その結果、当初期待されていた第二のセーフティネット機能が十分果たせない制度となってしまったようだ。たとえば、生活困窮者支援制度の利用者や生活保護受給の就労支援対象者への支援において、この求職者支援制度の訓練支援メニューには使えるものが少ないという問題をもたらしている。これらのことから、研究者や生活困窮者支援関係者がすでに指摘しているように、求職者支援制度は今後見直す必要があるだろう。
これとは別に、厚生労働省は、今年4月から新たに「第二のセーフティネットの構築に向け、求職者支援制度と併せ、生活困窮者に対する支援を実施していくための体制整備等を進めるため、国の中期プランを策定する」。こうして、社会・援護局は新たに「生活困窮者自立支援室」を新設し、社会保障審議会に「生活困窮者の生活支援のあり方に関する特別部会」を立ち上げた。厚生労働省は、生活保護制度の見直しも合わせて行うとし、これらによって重層的なセーフティネット「生活支援戦略」(仮称)の構築をはかるという。
この「戦略」が貧困・社会的排除を予防し、生活保護受給からの脱却を支援するとともに、求職者支援制度の限界を克服する仕組みとなることが期待される。しかし、「全員参加型社会」に向けたこの制度の内実がどのように設計されそれを実現しようとしているのだろうか。若者やホームレスなどの個々の生活困窮者に対する施策が整ってきたとはいえ、「生活支援戦略」の全体像はまだみえない。そこには、ハードなワークフェアからソフトなアクティベーションまでいくつかの選択肢が広がっている。その選択が日本の社会的包摂政策の広がりと質を決定することになるだろう。その意味で、大いに注目していきたい。