目次
監訳者まえがき(太田真弓)
日本語版出版に向けての特別寄稿(マリリン・ストラッチェン・ピーターソン)
謝辞
序文
PART 1 危険信号:養育者歴、家族歴、養育者と子どもの行動
PART 2 虐待発見とスクリーニング検査
PART 3 子どもへの面接
PART 4 サインと症状の評価
挫傷
虐待による頭部外傷と乳児揺さぶり症候群
熱傷による児童虐待
児童虐待における画像診断
児童虐待とネグレクトにおける口腔・歯科領域の考察
人間のかみ傷への調査
児童虐待を思わせる状態
児童ネグレクト
発育不全
中毒
児童性的虐待
性感染症(STD)
周産期の薬物・アルコール中毒
代理ミュンヒハウゼン症候群
心理的マルトリートメント
PART 5 児童マルトリートメントに関連する特殊な問題
わいせつ行為をする子ども(12歳以下)
ティーンエイジャーの犯行
児童ポルノグラフィー
児童買春
PART 6 付随するリスクファクター
親の薬物乱用と児童虐待との関連性
児童虐待とティーンエイジャーの妊娠:関連性と対応
児童マルトリートメントと暴力被害女性に関連はあるのか
高齢者虐待
支援を必要とする成人への虐待
児童虐待と障害のある子ども
貧困とホームレス
重度精神疾患(SMI)のある親:児童虐待のリスクファクターとなるか
児童虐待と動物虐待:共通したリスクファクター認識と有効介入のデザイン
PART 7 社会的孤立により増強されるリスクファクター
PART 8 宗教的問題
PART 9 評価と治療
メンタルヘルス治療と評価を照会するのはどのようなときか
虐待・ネグレクトされた子どもの発達問題
虐待された子どもと家族のための治療プログラム
親‐子交流セラピー
PART 10 家庭内措置と家庭外措置の子ども
フォスターケア下にいる虐待・ネグレクトされた子どものためヘルス・プログラムのモデル
児童虐待と未成年者の非行:医療・発達・精神的問題
PART 11 児童虐待とネグレクト領域における多文化対応能力へのステップ
PART 12 重度または致死的虐待
PICUにおける現病と過去の傷害に対する系統別病歴の見直しと評価
地域検視官のプロトコール
重度身体的虐待・重度ネグレクトの生存者のための身体的リハビリテーション
きょうだい喪失:悲嘆、哀悼、そして回復
PART 13 多領域専門調査チーム
病院におけるSCANチーム・モデル
児童死亡検証チーム
子どものための特殊面接チーム
PART 14 法律・法廷
医療従事者への通告義務法
カリフォルニア州の裁判制度:専門家として、洞察力のある鑑定証人としての医療従事者
法廷での証言:証人としての医療専門家
PART 15 虐待に関連する専門家とプログラム
法執行機関・犯罪研究室・地区検事・公共弁護者の役割
児童保護サービスの役割
児童虐待防止における医療ソーシャルワーカーの役割
児童虐待の発見・評価・予防における看護師の役割
SAFE、SANE、CARE、SARTチームとナース・プラクティショナー検査チーム
児童虐待の第一発見者の役割:救急医療技術者(EMT)と救急隊員
児童虐待とネグレクトの発見と防止における歯科医の役割
動物虐待とその延長としての潜在的児童虐待の発見における獣医の役割
性的暴行被害支援センター
暴力被害女性のためのシェルターとカウンセリング
セラピストの役割
児童虐待における児童青年精神科医の役割
心理学者の役割
PART 16 予防
家庭訪問プログラム:新生児が生まれたリスクの高い家庭
親のサポートライン:虐待を予防するための親へのサポート
育児危機センター:疲れ果てた親のための休息ケア
子育て支援センター(FRC)
親のトレーニング・プログラム
ヘッドスタートと早期ヘッドスタート・プログラム
児童虐待とネグレクト予防:学校を基盤としたサービスとフォスターケア下にいる子どもへのサービス
メディア・キャンペーン
PART 17 関連機関の役割と管理
サービス補償
医師と看護師のためのトレーニングとテクノロジー・リソース
情報資源としてのデータ
データ収集システムの重要性
郡の保健所の役割
郡の人的支援部門の役割
郡のメンタルヘルス部門の役割
州機関の役割
州医師会の役割
連邦政府機関の役割
州の協会の役割
全米団体の役割
PART 18 将来への展望と発展
索引
付録 米国カリフォルニア州における児童保護システムの施行モデル
訳者あとがき
前書きなど
訳者あとがき
この本は、Child Abuse and Neglect: Guidelines for Identification, Assessment, and Case Managementの訳本である。原書は95人の各専門家が執筆し、米国の多くの大学において、医学、看護学、社会福祉の分野で虐待の教科書として使用されている。子どもが虐待されたとき、医療介入を必要とするケースが多いため、現在日本でも医学の視点からの虐待に関する本は多く出版されている。この本のユニークな面は、子どもをめぐる環境は多角的であることから、視点が医学のみならず、看護、教育、心理、福祉、法律、文化、予防、メディアなどから書かれており、おのずと各分野の専門性と他職種との連携の必要性を問うている。特に、原書の編者、マリリン・ピーターソン氏はソーシャルワーカーである。米国では被虐待児の今後を決定する際に、ソーシャルワーカーの役割は調整の鍵となっている。さまざまな体験を経て、現在CAAREセンターのディレクターであるピーターソン氏の子どもを救う情熱と行動力にはただ頭が下がる。原書の出版社、米国ボルケーノ社は、母君Ruth Gottstein氏が設立し、1970年代に米国で初めてドメスティック・バイオレンス(DV)の本を出版した会社であり、以来DVや虐待に関する本を多数出版している。現在はご子息のAdam Gottstein氏が後を継いでいる。
一方、監修者である山田典子氏も、日本でDVや虐待に取り組む第一人者である。変化してきているとはいえ、いまだ閉鎖的で男性優位の日本社会における山田氏の苦労は計り知れない。しかしピーターソン氏と同様に、彼女もまた多くのDV被害者や被虐待児を救うため、日々研究と実践にいそしんでいる。彼女の熱意が原書との出会いを導き、そして日本語版出版の運びとなったことは偶然ではないだろう。看護職の一員として、この仕事の一端を担えたことに心から感謝している。
残念ながら、虐待・暴力は日本や米国だけの問題ではない。古代から世界中人間の至る所に存在し、弱者が損傷を負い、尊い命が失われたりしている。米国に比べれば、虐待・暴力における日本のシステムや支援体制は遅れていると言わざるをえないが、それでも児童虐待防止法が設立され、毎年のように改正され、やっと弱者を守る視点が出現している。子どもは人類の宝である。今こそ、地域、学校、病院、行政、国が子どもを守る時代である。弱者が住みやすい社会こそが、真に豊かな社会であることは間違いない。
(…後略…)