目次
序 NGO・NPOと地理学
1.本書の目的
2.現地主義と超国籍主義――NGOをめぐる二つの「神話」
3.本書の分析枠組み
4.本書の構成
第I部 ローカルな空間とNGO・NPO
第1章 地域からの国際協力――NGOの地域密着型活動
1.はじめに
2.対象と方法
3.地域内の諸関係
4.地域間の諸関係
5.地方圏における「地域からの国際協力」の可能性
6.まとめ
第2章 市民参加からみた地域活動と国際協力活動の関係
1.はじめに
2.データと分析方法
3.途上国支援経験に関する統計解析の結果
4.住民側からみた「地域からの国際協力」の可能性
5.まとめ
第II部 ナショナルな空間とNGO・NPO
第3章 企業が創り出した都市のヒエラルキー
1.はじめに
2.企業の空間組織体系
3.空間組織の水平的・垂直的拡大
4.企業の空間組織からみた都市システム
5.まとめ
第4章 NGO間のネットワーク化と日本の都市システム
1.はじめに
2.ネットワークNGOの諸類型
3.地域型・全国型ネットワークNGOの実態
4.ローカルな役割
5.ナショナルな役割
6.まとめ
第5章 NPO法人の地理的不均等分布
1.はじめに
2.先行研究の課題と本章の目的
3.NPO法人の地理的不均等分布
4.NPO法人分布と都市システム
5.まとめ
第III部 グローバルな空間とNGO・NPO
第6章 巨大国際NGOの世界展開
1.はじめに
2.空間組織の機能と戦略
3.空間組織の編成要因
4.国家領域・世界都市システムとの関係
5.まとめ
第7章 オルタナティブな世界地理に向けて
1.はじめに
2.世界都市システムの概念と問題意識
3.実証研究の到達点
4.組織論からの再検討
5.NGO――オルタナティブな組織
6.まとめ
初出一覧
文献
索引
あとがき
前書きなど
序 NGO・NPOと地理学
(…前略…)
4.本書の構成
本書の構成は,以下のとおりである.
まず,第I部ではローカルな空間を中心的に扱い,NGOが所在する日本国内の地域社会とどのような関係性を構築しうるのか,また支援者(地域住民)側の意識・行動からみて,地域に密着した国際協力活動に可能性があるのかどうかを検証する.
第1章では,ローカルなNGO活動に注目し,地方圏のNGOが日本国内の所在地において「地域」とどのように関わりを持つのかを調査している.インタビュー調査をもとに,「地域からの国際協力」と呼ばれるNGOの地域密着活動の重要性を確認するとともに,NGOと地域との有効な関係性構築について展望する.特に,広島や沖縄の平和構築NGOにみられるような,その場所に固有の地域資源を利用することや,地域を基盤としたNGOの正当性構築が持つ積極的な意義を明示することを試みる.また,これらのNGOが地域を基盤としながら海外の「現地」との直接的な結びつきを重視していることから,新たな地域間関係の構築主体としても注目すべきであることを指摘する.
第2章は,第1章でNGO側から示された地域からの国際協力の有効性を,支援者となりうる住民側の意識・行動を分析することで検討する.ここでは日本全国を対象に実施された社会調査データを利用して,居住地域の状況,地域に対する意識・行動,ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)という3つの要素と,途上国支援に関する募金およびボランティア経験との関連を統計的に解析する.分析から,地域におけるボランティア活動の実施・参加を示す「地域活動」と,様々な組織への所属を示す「所属組織数」が途上国支援経験に関連していることを明らかにし,「地域からの国際協力」の潜在的な可能性が,支援者側の意識・行動からも確認されることを示す.
次に第II部では,日本というナショナル・スケールの空間を対象に,大企業の空間組織,NGO間ネットワークの編成,NPO法人の立地という三つの事例を取り上げ,東京一極集中を軸とする日本の都市システムの諸相と,その影響下におけるNGO・NPOの戦略と行動を分析する.
第3章では,まず現代日本に支配的な空間としての階層的都市システムの現状を確認するため,大企業における空間組織の構造を定量的に記述する.1980年以降の全上場企業,全国85都市を対象とした分析から,東京一極集中が強化される中で大企業の空間組織の垂直的・階層的拡大が読み取れること,また,日本の都市システムが東京-広域中心都市-県域中心都市という骨格を持ちながら,1990年代以降は支所統廃合により都市間の階層分化が生じていることなどを明らかにする.
第4章は,日本国内で進んでいるNGO間のネットワーク化が,第3章で示された日本の都市システム環境下においてどのように進められるのかを,「ネットワークNGO」と呼ばれる組織へのインタビュー調査を通じて多面的に分析する.そして,NGO間ネットワークの形成要因を,「実行性」と「正当性」という独自の枠組みから説明するとともに,それが政治・経済の東京一極集中という地理的文脈において機能していることを指摘する.本章を通じて,NGOのネットワーク化における東京という都市の重要性や日本国内の都市システムという空間の影響の大きさを明らかにする.
第5章では,NPO法人という新しい組織が,日本国内でオルタナティブな空間を形成しつつあるのかを企業との比較から検討する.そのために,第3章と同じく日本全体を対象にして,NPO法人の地理的分布と組織展開を規模・分野なども考慮しながら記述する.定量的な分析から,東京への著しい集中をはじめ,NPO法人の立地と空間組織が既存の政治的・経済的な都市システムと類似した形態を持つことを描き出し,とりわけ国際協力に取り組む団体(NGO)が最も特徴的な地理的分布を示すことも指摘する.
続いて第III部では,グローバルな空間における巨大国際NGOの世界展開に焦点を当てて分析を進める.そして,NGOの世界展開がもたらす新しいグローバル空間を捉える概念として,世界都市システムに注目し,その研究成果と課題を論じる.
第6章では,世界各地に組織・活動を展開する国際的非政府組織(INGO)に注目し,インタビュー調査を通じてそのグローバルな組織展開を世界都市システムとの関連から分析する.まず,INGOの空間組織が自律的な「地域拠点」と調整機関としての「国際拠点」を構成要素として,水平性・一時性・開放性といったネットワーク組織の特性を持つことを導出する.そして,「実行性」と「正当性」という概念からINGOの空間組織編成を規定する要因を整理した上で,空間組織の編成が「国境」や「国籍」に規定されている側面があることや,従来の企業中心の世界都市システム概念を再構築する必要性に言及する.
第7章においては,第6章で得られた知見を受け,世界都市システム研究の現状と課題を整理し,今後の方向性を展望する.特に,GaWCという研究グループの成果を中心として,ここ10年間で大きく進展してきた世界都市間の関係性を把握する実証研究の到達点と限界を詳しく検討する.そして,今後の研究においては,組織論を明示的に分析に取り込んだ上で,企業や政府ではなくNGOを対象に世界都市システム概念を再構築するという方向性を提示し,オルタナティブな世界地理を描き出す可能性を探る.
以上の様々な事例を通じて,ローカルからグローバルに至るNGO・NPOの空間的諸相を描き出すことが本書の目指すところである.