目次
刊行にあたって
はじめに
第1章 面会交流の現状・問題点
1.取決めの現状
2.紛争の現状
3.事例分析と問題点
コラム
第2章 養育費の現状・問題点
1.取決めの現状
2.支払いの現状
3.問題点
コラム
第3章 諸外国では
1.アメリカ
2.イギリス(イングランド、ウェールズ)
3.フランス
4.ドイツ
5.韓国
6.外国法に関する概括
コラム
第4章 別居から離婚まで
1.監護を巡る現状・問題点
2.面会交流困難事例の現状・問題点
3.婚姻費用分担の現状・問題点
4.婚姻費用分担・養育費と母子世帯の貧困
コラム
第5章 日本の離婚制度の問題点
1.子どもの権利の視点から
2.男女共同参画の視点から
コラム
第6章 子どもの養育と男女共同参画社会
1.子どもの養育と固定的性別役割分業
2.固定的性別役割分業から男女共同参画へ
3.離婚を巡る親子関係
第7章 現在の日本の裁判制度の脆弱性について
1.裁判官の不足について
2.裁判所予算の現状
3.事件数の推移
4.最高裁による司法制度改革の内容
5.まとめ
まとめ
1.面会交流の活発化・養育費の確保のための視点
2.今後求められることは何か
シンポジウム抄録
離婚後の子どもの幸せのために~面会交流、養育費を中心として~
ミニ講演「男女共同参画社会の延長としての共同監護権――離婚後の親子関係」
パネル・ディスカッションより
特別講演 婚姻解消と子どもの問題について──単独親権・共同親権の問題を中心にして
1.はじめに──外国の制度を参考にする際の注意点
2.家族に関する考え方の相違
3.共同親権を実現するために必要とされる法整備
4.共同監護の問題点
5.おわりに──単独親権制を原則に
「札幌おやこ面会交流の会」の紹介
前書きなど
はじめに
我が国の離婚件数は、1950年の83,689件から2000年の264,246件と増加の一途をたどり、2002年の289,836件を最高に、現在250,000件台を推移している(2009年厚生労働省人口動態統計)。離婚の内訳は、2009年の253,353件のうち、協議離婚が222,662件(87.9%)、調停離婚が24,654件(9.7%)、和解離婚3,414件(1.3%)、判決離婚2,512件(1%)、その他となる。
この離婚のうち約6割が未成年の子どものいる夫婦の離婚である。そのため、離婚後の一人親家庭が例外ではなくなるとともに、離婚後の子どもと親の関係の持ち方についても関心が高まってきている。
日本では、戦前は離婚の際には「家ニ在ル父」が親権を行使し、母親には親権がないため子どもを残して「家」を出なければならなかったことや、1965年までは父親が全ての子どもの親権を行う割合が母親のそれよりも多かったことから、養育費への関心が低かった。その後、離婚率が上がりさらに母親が親権者になる割合が増えるにつれて、養育費の問題は社会福祉の問題とも関連して、注目を集めるようになってきた。2009年は、親権者を定めなければならない未成年の子どもを持つ夫婦の離婚が146,408件(57.8%)あったが、そのうち妻が全児の親権者となる離婚が121,802件(83.1%)、夫が全児の親権者となる離婚が19,381件(13.2%)である(同人口動態統計)。しかし、依然として養育費の支払われる割合は極めて低く、これが昨今の子どもの貧困にも大きく影響している。
一方、子どもと離れて住む親の子どもとの交流についても、考え方が大きく変わってきている。上記のとおり、母親が子どもの親権者になる割合が逆転した1965年、親権者にならなかった母親が父親の元で暮らしている子どもと交流することを認めず、陰ながら健全な成長を祈ることが子の幸せであるという裁判(東京高裁昭和40年12月8日決定 取消却下原審東京家裁・『家庭裁判月報』第18巻第7号)が出されているが、その後出生率が1970年代に2.0を割り込んで子どもが減ったことや、映画『クレイマー、クレイマー』が有名になったように父親が子育てに積極的に関わりたいという意識が広まったことなどから、面会交流への関心が高まっている。しかしながら、現実には子どもと他方の親との面会交流が十分に実現しないことが多く、10年前と比べると調停や審判での子の監護に関する紛争は4倍以上となっている。
これらの問題を改善するために、共同親権制の導入についての議論が活発になってきている。しかし、現在の民法の定める親権の内容のまま離婚後も父母が親権を共同するとすれば、子に関する居所指定・教育・医療をはじめとした子どもに関する決定を婚姻中と同様に共同することも想定され、その場合は、離婚後でも父母間に緊密な協議が必要となり、さらなる紛争を生み出すことも危惧される。そのため、離婚の際に両親が「子どもに関して共同する事項」をきちんと合意する制度を作ることから検討する必要がある。また、子どもの権利条約をふまえて、「親権」という概念を子どもの権利の視点から再構成することを考える必要がある。
しかし、親権概念を再構成したり、離婚後の共同親権制を導入したからといって、それだけで面会交流や養育費の支払いが確保できるわけではない。なぜなら、現在でも別居中は子どもに関しては両親の共同親権であるが、子どもと非監護親との面会交流が活発であるとは言えず、かえって「離婚すれば子どもと会わせる」と言って面会交流を望む非監護親に対して離婚を促進する場合があったり、子の養育に必要な費用を含む婚姻費用の支払いを拒むことで、まとまった支払いを望む他方親に対して離婚を迫ったりするなど、両親双方に親権があるというだけで面会交流や養育費の問題が解決するのではないからである。
そこで、本書では、共同親権制度の議論には直接触れず、現在の制度の下で面会交流を活発にし、養育費の確保をするためには、どのような仕組みを作って行くべきなのかを考える。さらに、その前提として、なぜ現状の日本では面会交流が活発になることがこれほど困難なのか、なぜ養育費が依然として確保できないのか、その原因を考えてみたい。面会交流が進まないことについては非監護親になることが多い父親から不満が述べられ、養育費については監護親になることの多い母親から悲鳴のような声が上がる。これらは、法的には別の紛争ではあるが、「養育費を払ってもらえないなら、子どもを会わせない」「子どもに会えたら養育費を払う」などと、引替え給付の関係になることすらある。しかし、このように紛争がこじれる原因は、法制度だけではなく、我が国の根本的な社会の仕組みにもあるのではないか。結婚・離婚を通じた日本の家族のあり方まで遡って視点を提供したい。
また、社会的にも大きな問題となっているドメスティック・バイオレンス(DV)が、面会交流に大きな影響を及ぼしていることも考えなければならない。内閣府の2009年の調査では女性の約3割がDVを受け、そのうち1割が命の危険を感じており、その件数は2002年の調査時の約20%からわずか7年で1.6倍に上昇しており、DVが今や特別のものではなくなっていることを示している。警視庁への相談件数も2009年には28,000件を超える。このような状況の中で、別居中も含め離婚後に続く子どもと他方親との面会交流は、DVの被害者に恐怖と不安とをもたらす。子どもがDVを目撃することは子どもに対する虐待であると定義される(児童虐待の防止等に関する法律 2条4項)ように、子どもとDV加害者との接触も問題をはらんでいる。
本書では、このDVの問題にも触れながら、面会交流の制度について考えたい。
そして、面会交流も養育費も、最終的に歩み寄れなかった場合には、家庭裁判所での調停・審判という手続きによらざるを得なくなるが、現在の家庭裁判所は今後増えるであろう紛争に十分対応できるのであろうか。また、裁判所だけがこのような紛争を扱うという仕組みでよいのか。司法改革の流れの中で、家族の問題についての司法基盤についても触れてみたい。
本書は、法律論だけではなく、幅広い視点から面会交流・養育費の問題について考えるものであり、不完全ではあるが離婚の前後を通じた親子関係の議論の一助となれば幸いである。