目次
序章 自治体の姉妹都市交流に関する研究の必要性
第1章 姉妹都市交流の概観
1.国際姉妹都市協会誕生の歴史的背景
2.「姉妹都市」の用語と定義
3.日本における姉妹都市提携の特徴
第2章 研究の目的と対象
1.「国際化」の定義
2.「国際化」現出の時代的背景
3.問題の所在――姉妹都市交流の継続性を確保する要因
4.岩手県の自治体を研究対象とする理由
第3章 姉妹都市交流に関する先行研究
1.海外における姉妹都市交流の動向
2.1980年代前半における姉妹都市交流の状況
3.自治体における国際化推進整備状況
4.国際交流の目的と活動内容
5.姉妹都市交流の発展サイクル
6.市町村合併が姉妹都市交流に及ぼす影響
7.姉妹都市交流の事例研究
8.先行研究の問題点と課題
第4章 岩手県の自治体における姉妹都市交流
1.姉妹都市交流に関するアンケート調査の目的
2.姉妹都市交流に関する調査対象の限定
3.姉妹都市交流に関するアンケート調査の概要と結果
4.姉妹都市交流に関するアンケート調査結果の分析方法
5.姉妹都市交流に関する分析の結果と考察
6.姉妹都市交流の現状――真理表の背後にある環境
第5章 姉妹都市交流に関する事例研究――姉妹都市交流が休止している事例
1.松尾村とアルテンマルクト町
2.釜石市とディーニュ・レ・バン市
3.大船渡市とパロス・デ・ラ・フロンテラ市
4.遠野市とサレルノ市
5.江刺市とシェパートン市
6.姉妹都市交流が不活発な自治体に通底する要因
第6章 姉妹都市交流に関する事例研究――姉妹都市交流が活発な事例
1.大迫町とベルンドルフ市
2.藤沢町とデュアリンガ・シャー
3.北上市とコンコード市
4.矢巾町とフリモント市
5.姉妹都市交流が活発な自治体に通底する要因
終章 自治体の姉妹都市交流――継続的交流を可能ならしめる要因
1.本書のアプローチの特徴
2.政策的提言
3.今後の展開
4.姉妹都市交流の理想像
あとがき
引用参考文献
前書きなど
序章 自治体の姉妹都市交流に関する研究の必要性
(…前略…)
国際交流協会が危機的状況にある現状を如実に反映するように、ある自治体では市町村合併、緊縮財政などにより、国際交流活動の規模縮小、休止、最悪の場合は中止に追い込まれている。それは、姉妹都市交流の分野にもあてはまることであり、財政難のため、交流活動の大きな柱である青少年海外派遣・受入事業の中止を余儀なくされた自治体も出始めている。しかし一方では、長崎市とセントポール市との関係に見られるように、半世紀以上の長きにわたり、交流を継続させている自治体もある。こういう違いを生み出した要因は何か。本書では、姉妹都市交流が休止状態にある自治体も散見される岩手県の自治体を調査研究対象にして、日本で姉妹都市提携がブームを迎えた歴史的な背景なども押さえながら、この問題を究明する。
社会科学的な立場から、姉妹都市交流の継続性を確保する要因を考察する場合、全体に共通する要因を探ると同時に、その方法では見えてこない部分を、個々の事例を詳しく検討することによって把握する必要がある。本書においては、姉妹都市提携締結から10年以上経過した岩手県の自治体を対象に筆者が実施した2006年のアンケート調査結果を基にして、また、筆者ほか(2000)が岩手県の全自治体を対象にした1999年のアンケート調査結果を参考にしながら、全体に共通する要因を探求する。さらに、対象地域で行った質的調査を手がかりに、個別事例の特異性を浮かび上がらせる。具体的には、次のような資料を熟読した。それは、(1)姉妹都市締結を決定した議会の議事録、(2)青少年や成人の姉妹都市訪問報告書、(3)姉妹都市締結10周年などの際に発行された記念誌、(4)自治体の広報誌、(5)各自治体が設立した国際交流協会の総会議事録と添付資料、である。さらに、姉妹都市双方において、首長、行政における姉妹都市交流担当者、教育委員会などにおける青少年交流担当者、姉妹都市交流プログラムへの参加者などに聴き取り調査を行った。
本書の構成は、次のようになっている。第1章では、はじめに、アメリカで誕生した国際姉妹都市協会の歴史を追いながら、姉妹都市交流の理念を明確にする。次に、戦後日本にも導入された姉妹都市交流が、どのように定着し、その後どのように発展し、現在はどのような状況になっているかを概説する。第2章では、日本における姉妹都市交流の概観を踏まえ、1980年代後半から1990年代中葉に姉妹都市締結が盛んになった背景を探る。それは、日本の姉妹都市交流の特徴を明確にすることでもある。一大ブームから10余年が経過した岩手県の自治体の姉妹都市交流の現状を見ると、交流が盛んな自治体もあるが、一方では停滞あるいは休止を余儀なくされている自治体もある。このような状況をもたらした原因は何か、換言すれば、交流の持続性を確保する要因は何かを考究するのが本書の主題であることを、第2章で明示する。
第3章では、姉妹都市交流の継続性を可能ならしめる要因を検討する準備作業として、姉妹都市交流に関する先行研究を紹介し、本書が目指すべき研究の方向性を明確にする。第4章では、研究方法(ブール代数による真理表分析)、データ、そして分析結果を提示する。さらに、明らかになった全体の共通要因を敷衍するとともに、真理表の背後にある環境を考察する。第5章では、姉妹都市交流が停滞、休止している事例の分析を試みる。第6章では、第5章で取り上げた事例との比較対照として、姉妹都市交流が活発な事例を取り上げ、交流の持続性を確保している各自治体の独自性を解明する。終章では、本書の学問的な意義と、分析結果から導出できる政策的提言と今後の展望、そして姉妹都市交流の理想像を提示する。