目次
はじめに
I UAEのあらまし
第1章 UAE概略――中東・アフリカで一番多く日本人が在留する国
第2章 地理・自然――砂漠地帯が中心の過酷な気候環境
第3章 先イスラーム時代――湾岸古代文明の展開
第4章 イスラームの時代――アッバース朝誕生から首長家勃興まで
第5章 英国保護領時代――部族の合従連衡とイギリスによる分割統治
第6章 アラブ首長国連邦の成立――産油国の近代国家建設
II 人々の暮らし
第7章 宗教――イスラームと異教徒の共存
第8章 食生活――伝統的な食べ物ともてなしの文化
第9章 男性の服装――ナショナル・アイデンティティを形成するもの
第10章 都市の暮らし――人口増加と経済発展のなかで
第11章 ベドウィンの暮らし――血縁関係を重視した大家族・多世代の営み
第12章 大衆文化――東アジアからのポップカルチャーの流入
第13章 メディア、ネット事情――中東全域の情報通信拠点
第14章 スポーツ――観光資源開発とナショナリズムの発揚
【コラム1】真珠養殖でUAEに事業進出
III 教育
第15章 教育制度と改革理念――国際的労働市場で活躍できる人材育成
第16章 幼稚園――公立・私立ともに男女共学
第17章 小中学校――百花繚乱のカリキュラム
第18章 子どもたちの学校生活――登校から下校まで、年度初めから年度末まで
第19章 待ったなしの高校改革――大学教育に対応できる学力レベルへの底上げ
第20章 大学の制度と現状――高等教育の拡大とクオリティ確保の狭間で
第21章 大学と人材育成――学生の海外派遣から海外大学の国内誘致へ
【コラム2】留学時代の思い出
IV 女性
第22章 女性政策――国家発展のパートナー
第23章 女性と物の文化――身体装飾品と婚礼におけるその伝統的役割
第24章 女性と無形文化――民族舞踊アイヤーラと妊娠・出産にまつわる慣習
第25章 女性の服装――長衣とヴェール着用の伝統
第26章 女子大生の生活――活気に満ちた女の園
第27章 変化するライフスタイル――世代間・地域間格差を超えて
第28章 権力関係として見る男女――「男性は女性の保護者」という根強い観念
第29章 結婚――盛大な婚礼のかげで増加する未婚女性
V UAEを支える外国人
第30章 外国人労働者問題――UAE経済社会のあらゆる分野に進出
第31章 労働力自国民化――外国人労働者への依存構造の転換
第32章 頭脳流入――医療・大学教育における外国人依存の実態
第33章 外国人労働者の生活実態――ドバイ・ドリームはどこへ行ったか?
第34章 「移民」文化――グローバル・シティのエスニック・コミュニティ
第35章 国際送金――懸念される犯罪・テロへの流用
【コラム3】ドバイの地元メディアでの勤務体験
VI 政治
第36章 政治システム概観――2つの二重性
第37章 部族社会と伝統的政治制度――「マジュリス」と「寛大さ」の尊重
第38章 連邦体制と首長国――近代部族国家の統合と相克
第39章 民主化の動き――欧米からの外圧による政府主導の改革
第40章 女性の政治参加――女性閣僚・議員増加の背景
第41章 国家財政と社会福祉――「ゆりかごから墓場まで」の限界
第42章 イマーラーティーはどこに――UAEにおけるナショナル・アイデンティティとは
VII 経済
第43章 石油産業――GDPの4割を占めるUAE経済の主要部門
第44章 非石油産業――フリーゾーンを活用した新規産業育成
第45章 農業――食の安全保障のための水と農地
第46章 観光産業――国をあげてのイメージ・プロモーション
第47章 金融――自由化の促進と国際金融危機の影響
第48章 イスラーム金融――不動産・株式投資への依存からの脱却
第49章 通商――中継貿易拠点としてのドバイ
VIII 外交
第50章 中東外交――親西欧アラブ諸国との共同歩調
第51章 南アジア外交――経済・安全保障・援助関係の視点から
第52章 欧米外交――独立と繁栄を支えてきた米英仏
第53章 アジア外交――国内インドパワーの牽制と日中韓との経済交流
第54章 経済外交――経済援助と貿易協定
IX 日本とUAE――新時代の関係構築
第55章 エネルギー関連――環境モデル都市マスダール・シティ
第56章 都市開発と日本企業――日本国内市場の縮小により再燃する中東進出
第57章 多様化するドバイ活用術――日本企業にとっての「未開拓市場の広域営業所」
第58章 知られざる貿易関係――伝統衣装市場に食い込むメイド・イン・ジャパン
第59章 若者に浸透する日本文化――マンガ・アニメからサムライ・着物まで
第60章 日本人学校――UAE子弟の受け入れ
前書きなど
はじめに(細井長)
(…前略…)
日本ではアラブ首長国連邦(United Arab Emirates:略してUAE)という国の実態はあまり知られていないのが現状だ。連邦を構成する7つの首長国のひとつ、ドバイが観光地・リゾート地として認知されつつあり、メディアへの露出も高いため、UAEという存在は知らなくてもドバイという地名は耳にしたことがある人は多いだろう。編者は「UAEの首都はドバイ」という雑誌記事やテレビ番組をいくつか見たことがあるが、日本人の中東への関心や理解からすれば致し方ないところだ。
1971年に独立し、莫大なオイルマネーを用いて急速に発展を遂げてきたUAEは、多くの日本企業が進出し、いまや中東で日本人がもっとも多く住んでいる国になった。そして日本は消費する石油の多くをUAEから輸入している。2002年秋、関西空港にエミレーツ航空が就航を開始し、2010年春には成田空港にエティハド航空とエミレーツ航空が乗り入れるなど、日本からのアクセスも容易である。本来であればわれわれ日本人のUAEに対する関心と理解が高まってしかるべきである。しかしながら、日本では残念ながらUAEについての情報が少ない。本書は旅行のガイドブックレベルでは飽き足らず、より関心を深めたい一般の読者を対象に、数少ないUAEの専門家や現地在住経験者が60章にわたって同国を解説したものである。
ステレオタイプ的な見方でUAEを見ると、産油国ゆえリッチで高層ビルが林立している、広大な砂漠が広がりラクダが歩いている、そしてドバイのイメージで高級リゾート地というようなものだろうか。もちろん、間違いではない。しかし、高層ビルが林立しているのはアブダビとドバイのほんの一部であるし、砂漠ばかりではなく山岳地帯も存在する。
実際にUAEを訪れてみると、街中にはインド人など外国人の姿が非常に目につく。諸説あるがUAEは人口の8割が外国人と言われ、UAE人は少数派である。出稼ぎに来ているインド人のなかには、産油国のリッチさとは無縁の生活をしている労働者も多い。一方、少数派のUAE人であるが、彼らは政府から高給の公務員職を与えられ、さらには無料の学費や医療費などに代表されるように高福祉が約束されていて、普通の日本人では想像できない生活をしている人が多い。しかし、観光でUAEを訪れたのであれば現地でUAE人と接する(会話をする)機会は空港の入国審査官とのやりとりだけであろうし、仕事をしていても、通常のやりとりでUAE人と接する機会はあまりないはずだ。
本書ではそうしたあまり知られていない「UAE人の日常はどのようなものか」ということを大きなテーマに掲げ、UAE人の日常の中でもとくにベールに包まれた女性と子どもの生活にページを割いた。通常、この手の本では政治経済関係の解説に力点が置かれることが多い。しかし、本書ではあえて政治経済関係の章は後半に置き、何よりも普通のUAE人たちが何を食べて、どんなものを着て、どんなところに住み、どのような1日を過ごしているのかという日々の暮らしの解説を優先した。それを通じてUAE、UAE人への理解が少しでも深まってほしいと考えている。
ここ10年ほどで――ドバイが牽引した感は強いが――UAEに対するわれわれの関心はかつてないほどの高まりを見せた。しかし、それはややもすれば「カネ」絡みの関心であり、UAE人そのものへの関心ではなかっただろう。たしかに日本とUAEの今後の関係を考えた場合、政治外交的には大きな問題を抱えていないので、経済の比重が大きくなることは自明のことであるが、「カネ」絡みであったとしても、UAE人そのものを理解する必要があるように思う。それがたとえ「見えない」存在であったとしても。本書がその一助となれば幸いである。
(…後略…)