目次
はじめに
序章 多民族・多文化化する日本社会――問題の所在とアプローチの視点(渡戸一郎)
1.「エスノスケープ」の日常化と「多民族化」
2.「単一民族社会」から「多民族化社会」へ
3.「ネイション・ステイト」とは何か
4.「人種」と「エスニシティ」
5.「日本人」とは誰のことか――エスノ文化的ネイション理解を超えて
6.多民族化する社会の研究に向けて
第1章 グローバル・マイグレーションと外国人・移民――越境移動の拡大・変容と移民の適応過程(渡戸一郎)
1.グローバルな人の移住・移動の進展
2.人はなぜ移住=移動するか
3.外国人・移民とは誰のことか
4.移民の適応過程と編入モード
第2章 ニューカマーの体験・オールドカマーの記憶――その共通性と独自性(井沢泰樹)
1.現代日本と多民族状況
2.単一民族観という植民地主義
3.日本の単一民族観・植民地主義の経験
4.「日本社会の下請け」としての外国人・少数民族
5.一人ひとりの生き方の問題としての多文化主義
第3章 「外国人労働者」と呼ばれる人びとの諸相――在日外国人と階層分化(鈴木江理子)
1.いわゆる「単純労働者」
2.日本で働く「外国人労働者」
3.外国人労働者をめぐる現状と今後
第4章 定住化する外国人のライフコースと課題(武田里子)
1.ニューカマーの増加と定住化
2.主要4ヵ国の定住外国人の特徴
3.ライフコースの視点からみたエスニック・ビジネス――日本社会における定住条件の制約をチャンスへ
4.結婚移住女性の定住化とその課題
5.まとめ
第5章 外国につながる子ども・若者の生き方(藤原法子)
1.日本における国境を越えて移動する人びとの子ども世代をめぐる現実
2.一・五世代・第二世代の生き方――事例から
3.トランスナショナルな世界を生きる
第6章 地域社会の「多文化・多民族化」――「トランスナショナリズムと場所」研究から(広田康生)
1.トランスナショナリズムを再論する
2.地域社会の多文化・多民族化を考える三つのポイント――トランスナショナリズム論からの発想の拡がり
3.事例:地域社会の多文化・多民族経験が提起する問題――「共生」過程にみる差異とアイデンティティ・ポリティクス
4.おわりに――日本人のトランスナショナリズムと場所
第7章 「在日外国人」というポジションと精神病理(阿部裕)
1.はじめに
2.在日外国人と多文化ストレス
3.在日外国人の精神病理・精神障害
4.考察
5.おわりに
第8章 問い直される日本人性――白人性研究を手がかりに(松尾知明)
1.アメリカ白人性研究の展開
2.日本人性の概念とアプローチ
3.日本の公立学校と外国人の子どもたち
4.おわりにかえて――多文化の共生へ向けて
第9章 外国人の「参加」――その権利を保障するために(加藤恵美)
1.はじめに
2.外国人の地方参政権
3.事実上進む外国人の政治参加――神奈川県川崎市の事例
4.おわりに
第10章 日本のトランスナショナリズムの位相――〈多文化共生〉言説再考(柏崎千佳子)
1.はじめに
2.日本における移民・外国人支援の活動
3.移民・外国人の編入様式と〈多文化共生〉
4.日本のトランスナショナリズム――比較の視点から
5.おわりに――〈多文化共生〉言説再考
第11章 外国人政策から移民政策へ――新たな社会ビジョンとしての「多民族化社会・日本」(渡戸一郎)
1.「他者」の理解と受容
2.日本社会における民族的多様性の増大と社会関係の変容
3.多文化共生政策と多文化主義
4.日本における多文化共生政策の課題
5.おわりに――「統合」か「多文化共生」か
資料 「多民族化社会・日本」を読み解くための関連年表(渡戸一郎)
索引
前書きなど
はじめに(渡戸一郎/井沢泰樹)
グローバル化による現代日本の社会変容を議論するとき、「多文化」や「多文化化」という、聞き心地のよい、柔らかな表現がよく聞かれる。また、「多文化化」に伴う望ましい社会のあり方を指し示す「多文化共生」という言葉が、市民団体ばかりでなく、国・自治体の政策用語としても使われるようになり、その多くは1980年代以降のニューカマー外国人の増加や定住化に伴う諸問題を扱っている。しかしよく考えてみると、日本のような民族的同質性の相対的に高い社会において「多文化化」という表現を用いることは、「多民族化」という、歴史的かつ政治社会的に複雑で重い問題を迂回するための婉曲語法とも受けとれる。
なぜなら、第二次世界大戦後の日本では長らく「単一民族神話」が強く作用してきたために、「多民族化」という表現は一定の刺激的な意味合いをもたざるをえないし、ましてや敗戦までの日本は「多民族帝国」だったにもかかわらず、そのことを忘却しようとしてきたのだから。こうした歴史への視点を十分踏まえずに「多文化共生」を繰り返し唱えているだけでは、空疎なスローガンに終わってしまいかねない危惧もある。
本書『多民族化社会・日本』は、第一に、この戦前・戦後の転換を踏まえて、日本における国民国家の形成と再編の過程に、この「多民族化」という社会変容を位置づける(巻末に関連年表を付した)。そこでは、本質主義か構築主義かといった点を含めて「人種」や「エスニシティ」の概念が問題になるし、「国民」概念も鋭く問い直されることになる。また、「多文化共生」を実現する過程に横たわる、よりシビアで現実的な課題に取り組むことも避けられない。本書の副題を「〈多文化共生〉の社会的リアリティを問い直す」とした理由はここにある。
本書の第二のねらいは、日本における「外国人」や「人種的民族的少数者」の人びとを、研究の「対象」や「客体」にとどめることなく、自明のものとして通り過ぎがちな「日本人」あるいは「日本社会」をも研究対象の俎上に載せ、「複合民族社会日本」をどう捉え、社会ビジョンとしていかに構想していくかを考えることにある。こうした試みがどこまで成功しているかはひとえに読者のご批判をまつしかないが、本書で十分深めることができなかった問題は今後の課題としたい。
本書は大学生や大学院生向けの入門書としての性格をもっている。併せて本書は一般読者の方々のほか、外国人・移民問題にかかわる市民団体や自治体職員など広い読者層を想定している(読者のなかに日本で生まれ育った「外国につながる若者」もおられることだろう)。そこで、難解な言葉や専門用語などはできるだけルビを付したり文中で説明する工夫をしたが、不十分な点についてはぜひ各種の辞典などを引いて確認していただければ幸いである。
(…後略…)