目次
序論 「安全保障」の構造転換(佐々木寛)
第1部 コミュニティの自然・生命を守る
第1章 瀬戸内海に広げる環境コミュニティ(阿部悦子)
1 はじめに――市民派議員として
2 原点としての学校給食問題
3 今治市のその後――学校給食を軸に大きく変貌
4 織田が浜埋め立て問題
5 ゴルフ場建設反対――立木トラスト運動
6 行政手続条例制定を求めて
7 海をこれ以上埋めないで――瀬戸内法改正運動
8 愛媛県議会でのあれこれ
9 リサイクルの名のもとで――鉄鋼スラグ問題
10 おわりに――未来のために、脱成長・脱開発の視点を
第2章 命を守るコミュニティ――近年の自殺予防活動の動向(福山清蔵)
1 自殺予防への取り組みの概況
2 自殺予防の総論的段階から各論的段階へ
3 コミュニティへの介入実践と研究の動向
4 秋田県の自殺予防モデル事業
5 青森県の自殺一次予防の推進事業
6 経済的な自殺問題に対するアプローチ
7 新しいアプローチとして
8 自殺未遂者に対する対応
9 自殺遺族に対する対応
第2部 危機にどう立ち向かうか
第1章 真の安全保障を求めて――沖縄・ジェンダーの視点から(高里鈴代)
1 はじめに――私のこれまでの活動について
2 女性、子どもの立場から見た人間の安全保障
3 基地と日常、それに付随するさまざまな問題
4 兵士が直面する過酷な現実と暴力
5 構造的暴力の解決と議員活動
6 アメリカでの講演活動
7 世界の女性たちとのネットワークの構築
8 真の安全保障とは
9 安全な社会をつくるために
《質疑応答》
第2章 原子力発電所と自治体の「安全保障」――新潟の事例から(佐々木寛)
1 原子力発電所の「安全」をめぐる現行の制度的枠組み
2 中越沖地震と原子力の「安全」をめぐる政治
3 原子力問題と「自治」
第3章 市民は誰が「保護」するのか――「国民保護法制」を分析する(五十嵐暁郎)
1 はじめに
2 国民保護法の制定と社会の反応
3 地方自治体の反応――鳥取県の対応
4 国民保護は、はたして可能なのか?――図上訓練で表面化した課題
5 「自分たちの国は、自分たちで守る」――スイスの民間防衛
6 もう一つの選択――無防備都市宣言
7 おわりに――市民の安全は誰が守るのか
第3部 国境を越えて
第1章 外国籍住民と地方自治体――ともに生きる地域をめざして(山田貴夫)
1 はじめに
2 未完の戦後補償
3 革新自治体の外国人政策
4 外国籍住民の「発見」
5 ニューカマーズの登場
6 自治体政策の課題
7 おわりに
第2章 地域の自立性回復をめざして――東北タイにおける「朝市」運動(松尾康範)
1 貧しさとは
2 生きることの基本“農”が壊れる
3 イサーン
4 国家レベルの近代化の陰で
5 農作物の自由化
6 レインボープラン
7 イサーンで始まった朝市
8 「むらとまちを結ぶ市場」へ
9 援助は人々から自立心を奪う
10 自発的意志を持った人との連携
11 時代が求めていた
12 ある住民リーダーの死を考える
13 人々のグローバリゼーションをつくろう
前書きなど
序論 「安全保障」の構造転換(佐々木寛)
(…前略…)
本書の位置づけ――「安全保障」概念の再構築に向けて
本書は、「地方自治体」と「安全保障」という、本来結びつくことのなかった二つの言葉をつないでタイトルに冠した、おそらく日本では初めての本となる。「安全保障」は、通常、「国家安全保障」を意味し、その主体は国家である。国家が主として軍事的な手段を用いながら、国家の安全を脅かす「脅威」に対峙することこそ、「安全保障」政策の本位であった。
しかし近年、この伝統的な意味における「安全保障」概念もまた、これを独占してきた当の軍事・安全保障の専門家たちによって、徐々に変更が加えられるようになった。まず、対象である「脅威」の内容が、グローバル化する「テロ」や国際犯罪、金融不安や地球環境問題、難民問題などにまで拡大されることによって、「何から」「何を」守るのかという「安全保障」の境界設定が国境を横断してきわめて多層化するようになった。現実の「脅威」が主に隣国や外敵の正規の軍事力に限られるという時代は、まさに終わりを遂げつつある。さらに、その「手段」(「どのように」安全を守るのかという問題)についても、従来のような軍事力を中心としたアプローチだけでは十分に対応できないという切実な問題も自覚されるようになった。このように、あくまで「国家の安全保障」を第一の課題に据え、実現するという立場からも、「安全保障」概念の拡大は不可避の趨勢となっている。
したがって本書では、この「安全保障」概念ができる限り拡大され、従来の「国家安全保障」よりも広範で多様な主体にとっての「安全」もまた、「安全保障」の範疇に組み込んで議論が展開されている。食や農をめぐる「安全」、住環境の「安全」、自殺などの社会不安からの「安全」、女性にとっての「安全」、原子力発電の「安全」、有事に際した地域住民の「安全」、外国籍住民の「安全」……。本書で扱われている「安全」のテーマは、いずれも、地方自治体をはじめとするローカル・コミュニティにとっては、具体的、かつ切実な「安全保障」問題である。逆にこれまで、いわば大文字の「安全保障」をめぐる議論が、これら小文字の「安全保障」問題に十分取り組んでこなかったのではないか、という根本的な問題も浮かび上がる。
確かに、「ローカル・コミュニティの安全保障」というテーマは、依然として未開拓であり、本書においても、理論的にはきわめて未熟な段階にとどまっている。しかし、政治空間が多層化する現代政治の文脈の中で、もはや「安全」をめぐる政治学もまた、再構築されねばならなくなっているという事実も疑いえない。本書の試みは、その大きな政治学的企図の「助走」の位置を占める。